俳句

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不知火の見えぬ芒にうづくまり  杉田久女 
不知火を見る丑三の露を踏み  野見山朱鳥 
ぎぼし咲き海霧がむしばむ一墓標  金尾梅の門 
石仏の百態ぎぼしの花終る  角川源義 
海棠や又の妃も藤原氏  赤木格堂 
歎けとてやゆすらうめ咲く厨裏  木下夕爾 
木苺の花に雨風ゆきがたし  長谷景堂 
三椏の咲くや泉声沢を落つ  水原秋桜子 
秋苑に来て執着す老後のこと  菊池麻風 
掘り下げし底の見られて秋の土  山口誓子 
麓路や七夕竹に日の弱る  大森桐明 
誰が持ちし硯ぞ今日をわが洗ふ  水原秋桜子 
洗硯す晩年はかく寂びたらむ  林翔 
金輪際わり込む婆や迎鐘  川端茅舎 
草市のあとかたもなき月夜かな  渡辺水巴 
古里にふたり揃ひて生身魂  阿波野青畝 
水飲んでまた棚経に出かけけり  加藤覚範 
我箸も苧殻に数え紛れけり  岩間乙二 
すね茄子馬役を相勤めけり  小林一茶 
じやがいもの花のさかりのゆふまぐれ  日野草城 
馬鈴薯の花の日数の旅了る  石田波郷 
桜桃の花に奥嶺の雪ひかる  大竹孤悠 
閑かさにひとりこぼれぬ黄楊の花  阿波野青畝 
どうだんの花落ちたまる昼深し  平栗猪山 
中元や一息入れる寺の門  今泉荻泉 
盆支度して古町のひそとあり  及川貞 
盆用意ひとり身なればさゝやかに  田中真砂城 
旧盆の鴉ばかりの田を通る  森総彦 
千人塚の盆供しづかな海から風  今桟一 
六斎や身を逆しまに打つ太鼓  高崎雨城 
漁夫たちの人気をかしや盆狂言  楠目橙黄子 
工場の中にかゝれり盆芝居  大内穭水 
とある露次苧殻たく火のほのぼのと  長谷川素逝 
相阿弥の宵寝起すや大文字  与謝蕪村 
裏戸より妙法の火を拝みけり  鳥居涼意 
ひとり立つ小雨の門や鳥居の火  高桑義生 
盆燈籠いくさに敗けしことも久し  小笠原樹々 
昼を廻る燈籠の絵や日影さす  大谷句仏 
茴香の夕月青し百花園  川端茅舎 
池に降る雨こでまりを濡らす雨  岸風三樓 
鈴懸の花下に湧く詩を湧くまで待つ  磯貝碧蹄館 
プラタナスの花咲き河岸に書肆ならぶ  加倉井秋を 
灯を入れて岐阜提灯の萩淡く  岡本草居 
北海の果てしらず流す燈籠かな  桜木俊晃 
流燈や一つにはかにさかのぼる  飯田蛇笏 
精霊舟ふれゆく草は水漬く草  米澤吾亦紅 
摂待や門の紫苑に茶の煙  島田五空 
再建も久しき寺の門茶かな  大谷句仏 
五位鳴いてそゞろ行水名残かな  河東碧梧桐 
庭に出て線香花火や雨あがり  星野立子 
燈火親し座右に旅の石一つ  秦野のぼる 
干瓜の塩の乾きや日照草  正岡子規 
小豆干し松葉牡丹はまだ燃えて  清崎敏郎 
海鳴れり通草も黒き花を垂れ  相生垣瓜人 
岩の上に咲いてこぼれぬ山帰来  村上鬼城 
翠巒を落ち来る霧や杉の花  大竹孤悠 
窓の外にゐる山彦や夜学校  芝不器男 
砧うちて我に聞かせよや坊が妻  松尾芭蕉 
灯ともしてなほはかなしや後の雛  畑耕一 
雁瘡の子の寝あそびや猫抱きて  川畑火川 
みやこにも住みまじりけり相撲取り  向井去来 
負けまじき角力を寝ものがたりかな  与謝蕪村 
宿の子をかりのひいきや草相撲  久保より江 
気折れ顔にくにくしさの相撲かな  飯田蛇笏 
九月場所街中どこも川臭し  小池一覚 
秋場所のテレビ見しのみ雨休み  土生桂三 
海蠃うちの廓ともりてわかれけり  久保田万太郎 
鳩吹くや犬は夕日にうづくまる  村山古郷 
初猟の日と知る鵙のけたゝまし  久米三汀 
へだたりのさみしく根釣並び見ゆ  皆吉爽雨 
秋愁の水こんこんと面洗ふ  松本美津子 
峯頭に片雲もなし解夏の朝  高田蝶衣 
送行の膝に笠おく湖舟かな  本田一杉 
稀にあふ逆の遍路や室戸道  高浜虚子 
我が前を辞儀して過ぎぬ秋遍路  池上不二子 
捨扇万朶の露の下にかな  原石鼎 
石段に忘れ扇や鳳来寺  岡田耿陽 
秋すだれ昼すぎて雲乱れ出す  本宮銑太郎 
灯して秋の簾をおろしけり  藤田耕雪 
寝所をかへたる蚊帳の別れかな  正岡子規 
ねむらんとする静けさの秋の蚊帳  相馬黄枝 
故人思ふや風炉の名残りを妻と居て  原石鼎 
母の猫ゐねむりをりぬ秋の炉に  塚本ひさゑ 
秋袷激しき性は死ぬ日まで  稲垣きくの 
秋羽織身は癒ゆれども心憂し  白川京子 
秋服や人の絶信袂より  平畑静塔 
山を裏に槐の花の宿りかな  河東碧梧桐 
寿を守る槐の木あり花咲きぬ  高浜虚子 
葉がくれの星に風湧く槐かな  杉田久女 
留守居して牡丹の根分終りけり  一松新丘 
萩刈りしゆゑのさびしさのみならず  上林白草居 
菜種蒔くや伊豆も果なる開拓地  新井反哺 
長長しき牛蒡掘るなり練馬野は  村山古郷 
赤土の陽に跼みせんぶり摘み憩ふ  藤井青咲 
当薬を引く枯れ音の地にこぼれ  安藤姑洗子 
美しき石拾ひけり茜掘り  溝口素丸 
薬堀り小さき滝に憩ひけり  佐々木北涯 
新渋の網うち映ゆる夕日哉  八十村路通 
渋取や物に裂けたる猿袴  村上蛃魚 
峡の夕日しんかんにほふ綿摘めり  笠井恵策