草の戸も住替る代ぞひなの家

東京深川にある松尾芭蕉の句碑

くさのとも すみかわるよぞ ひなのいえ

芭蕉の句碑「月日は百代の過客にして」ではじまる「おくの細道」の序文に添えられた句は、元禄2年(1689年)3月23日付書簡(門人安川落梧宛)に「草の戸も住み替る世や雛の家」として現れている。第二次芭蕉庵を、この年の2月末に「奥の細道」の旅に出るため知人に譲り、杉風の別墅採荼庵で仮住まいしていた折に詠まれた句。譲った芭蕉庵を覗いてみると、自分とは異なる妻子を伴うひとの生活があった…という句意。なお奥の細道の旅は、3月27日に採荼庵から出発している。
この句碑は、江東区芭蕉記念館の中にあり、芭蕉庵はそこから南に300mほどのところにあった。採荼庵は、南東に1000mほどのところにある。芭蕉記念館には、芭蕉の句の中に詠み込まれた草木が植えられており、「草の戸も」の句碑の他「古池や蛙飛びこむ水の音」「川上とこの川下や月の友」の句碑もある。館内には芭蕉遺愛の石の蛙や各種資料が常設されている。

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芭蕉句碑巡り 2018年4月16日

芭蕉句碑芭蕉庵史跡庭園から隅田川沿いを歩くと、整備された遊歩道の中に芭蕉の句が点々としている。それらをひとつひとつ拾い上げながら行くと、昭和56年に建てられたという芭蕉記念館が見えてくる。表に回って門をくぐると標石があり、「左芭蕉庵」とある。そちらの方に足を向けると、鬱蒼とした緑の築山の上に御堂がある。それが、昔日を模ったという芭蕉庵。中には芭蕉像が安置されている。

芭蕉句碑その芭蕉像は、かつて芭蕉稲荷に祀られていたというものだ。コンクリート塊に取り囲まれてしまった立地を嫌って、月光が川面におちるこの場所に住み替えたか。夜になると朗々とした声を上げるのかもしれないと思いながら手を合わせると、耳元にそっと風が囁く。顔を上げると、「川上とこの川下や月の友」の碑が見える。
草の戸は朽ち果てるとも魂は漂い、こうして棲家を代えながら、今はこの小さな芭蕉庵の中で時を重ねる。そうして、「少しだけよみ間違いを犯したようだね」と指摘する友を待ち続けているのかもしれない。

葉桜や昔の人と立咄  子規



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