秋風やむしりたがりし赤い花

あきかぜや むしりたがりし あかいはな

一茶の悲しみを増幅させた赤い花

秋風やむしりたがりし赤い花「おらが春」(白井一之編1852年)所収の小林一茶の文政2年(1819年)の句。「さと女卅五日墓」の前書があり、亡くなった最愛の長女「さと」の35日墓参時に詠まれた句として知られている。一茶発句集文政版(1829年)には「秋風やむしり残りの赤い花」。

さとは、文政元年5月4日に生まれた。1歳になったばかりの翌年5月末に天然痘に感染し、6月21日に亡くなった。一茶は、「蕣の花と共に此世をしほみぬ」と記している。新暦での命日は8月11日だから、35日後は9月15日。赤い花とは、赤みを帯びた蕣(あさがお)のことであろう。
「秋風やむしり残りの赤い花」などとも合わせて考えると、この句の意味は、「夏の日にむしりたがっていた赤い花が、秋風が吹いているのにまだ残っているよ…」というような感じか。

「おらが春」には、死別の句も掲載されている。

この期に及んでは行水のふたゝび帰らず、散花の梢にもどらぬくひごとなどとあきらめ皃しても、思ひ切がたきは恩愛のきづな也けり。

 露の世は露の世ながらさりながら 一茶

▶ 小林一茶の句

句評「秋風やむしりのこりの赤い花」

高浜虚子「俳句はかく解しかく味う」1918年

一茶は非常に細君や子供に不仕合せの人であったのである。このさと女というのもたしか子供であったかと思う。その亡き児の三十五日に墓参りをして、その赤い花を手向けた、この花はその亡き児が生前にむしり取って遊んでいたそのむしり残りの花だというのである。「秋風や」は折節秋の時候であったので、淋しい心持を寓したのである。なおこの句から聯想した一句がある。

 春雨や食はれ残りの鴨が啼く 一茶

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