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安住敦 

万愚節に恋うちあけしあはれさよ 
涅槃図に束の間ありし夕日かな 
啄木忌いくたび職を替へてもや 
亀鳴くや事と違ひし志 
雨の日は雨の雲雀のあがるなり 
鳥帰るいづこの空もさびしからむに 
蜆舟少しかたぶき戻りけり 
白つつじこころのいたむことばかり 
葱坊主子を憂ふればきりもなし 
蟾蜍さびしき顔をして寄り来 
門川にうつる門火を焚きにけり 
おもかげのうするゝ芙蓉ひらきけり 
落葉明りに岩波文庫もう読めぬ 
輪飾や一つ構へに子の所帯 
数の子や一男一女大切に 
初日記一齟齬すでにありにけり 
初電車子の恋人と乗り合はす 
初釜のはやくも立つる音なりけり 
子と頒つ秋のともしの手くらがり 
しぐるるや駅に西口東口 
春の驟雨たまたま妻と町にあれば 
かの夫人蜜柑むく指の繊かりしが 
草萌やちゝはゝ一つ墓に栖み 
夕蛙いもうと兄を門に呼ぶ 
水を出て家鴨寄り添ふ暮春かな 
鬱々と蜜柑の花が匂ふならずや 
てんと蟲一兵われの死なざりし 
友の訃に急くや白鷺も同じ向き 
泥鰌鍋離反のこころ読めにけり 
そぞろ寒兄妹の床敷きならべ 

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