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渡辺水巴 

紫陽花や白よりいでし浅みどり 
筍の光放つてむかれけり 
冬晴れて那須野は雲の湧くところ 
寂寞と湯婆に足をそろへけり 
かたまつて薄き光の菫かな 
白日はわが霊なりし落葉かな 
てのひらに落花とまらぬ月夜かな 
秋の日や啼いて眠りし枝蛙 
日の出前にぬれしや菖蒲花ゆたか 
雁行のととのひし天の寒さかな 
さいかちの月夜や灯る焼藷屋 
三日月にたゝむ日除のほてりかな 
流星は切火のごとし晴夜照る 
家々の灯るあはれや雪達磨 
花冷に欅はけぶる月夜かな 
大雨の降りかくす嵯峨や仏生会 
日と空といづれか溶くる八重桜 
柏餅古葉を出づる白さかな 
家まはり山風めきて松落葉 
葉裏葉影ざわめく風や橡の花 
あかね雲ひとすぢよぎる二日月 
望の月雨を尽して雲去りし 
草市のあとかたもなき月夜かな 
うすめても花の匂ひの葛湯かな 
障子白き窓や寒竹巨石あり 
何の木か梢揃へけり明の春 
ほんの少し家賃下りぬ蜆汁