渡辺水巴 ●
紫陽花や白よりいでし浅みどり 季筍の光放つてむかれけり 季冬晴れて那須野は雲の湧くところ 季寂寞と湯婆に足をそろへけり 季かたまつて薄き光の菫かな 季白日はわが霊なりし落葉かな 季てのひらに落花とまらぬ月夜かな 季秋の日や啼いて眠りし枝蛙 季日の出前にぬれしや菖蒲花ゆたか 季雁行のととのひし天の寒さかな 季さいかちの月夜や灯る焼藷屋 季三日月にたゝむ日除のほてりかな 季流星は切火のごとし晴夜照る 季家々の灯るあはれや雪達磨 季花冷に欅はけぶる月夜かな 季大雨の降りかくす嵯峨や仏生会 季日と空といづれか溶くる八重桜 季柏餅古葉を出づる白さかな 季家まはり山風めきて松落葉 季葉裏葉影ざわめく風や橡の花 季あかね雲ひとすぢよぎる二日月 季望の月雨を尽して雲去りし 季草市のあとかたもなき月夜かな 季うすめても花の匂ひの葛湯かな 季障子白き窓や寒竹巨石あり 季何の木か梢揃へけり明の春 季ほんの少し家賃下りぬ蜆汁 季
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