三秋の季語 梨
バラ科ナシ属。梨の花は春の季語、梨の実は秋の季語。8月から11月頃に実をつける。普通に梨と呼ばれるのは和梨(日本なし)のことで、他に中国梨・洋梨(西洋梨)がある。
和梨の原産地は中国であり、弥生時代に大陸から導入されたものと考えられている。
日本では発掘遺物より、弥生時代に既に食用にされていたと考えられている。日本書紀では、持統天皇7年(693年)に、五穀を補うために桑・紵・梨・栗・蕪菁などの草木を植えることが奨励されている。
栽培技術が発達したのは江戸時代で、明治時代になると、千葉県松戸市において二十世紀、神奈川県川崎市で長十郎が発見されるに至った。さらに戦後には、幸水や豊水も生まれている。
なお、果皮の色から、幸水や豊水などの赤梨系と、二十世紀などの青梨系に分けられる。幸水は、最もはやく市場に現われ、7月に店頭に並ぶこともある。
梨の語源は、中心部ほど酸味が強い「中酸(なす)」であるとも言われるが、古くは「つまなし」と呼ばれてきたことから、その丸さを表現した「端(つま)無し」に見るのが妥当だろう。
「なし」は「無し」に通じるため、これを忌み「ありのみ」と呼ぶことがある。また、鬼門の方角に梨を植え、「鬼門無し」と縁起を担ぐこともある。「栄養なし」などと言われることもあり、実際にビタミン類などの含有量は多くないが、夏バテ防止や発汗作用を持つ成分が含まれており、夏に食べるのに適した果物だと言える(秋の季語だということを残念に思う)。
果実を歌ったものではないが、万葉集に「梨」は3首掲載されている。その内2首は「妻梨」の名で出ており、「妻無し」に掛けた歌である。
黄葉のにほひは繁ししかれども 妻梨の木を手折りかざさむ(詠み人知らず)
梨を使った熟語なども比較的多く、歌舞伎界を意味する「梨園」、「梨」を「無し」に掛けた「梨のつぶて」などがある。
【梨の俳句】
この梨の二十世紀の残り食ふ 須原和男