萬緑の中や吾子の歯生え初むる

ばんりょくの なかやあこのは はえそむる

新たな季語を生み出した中村草田男の代表的な俳句

萬緑の中や吾子の歯生え初むる人間探求派の代表的俳人である中村草田男の代表句とも言える俳句である。句集「火の島」(1939年)所収。この俳句により「萬緑」という夏の季語が生まれた。「萬緑」の言葉は、北宋の王安石の「万緑叢中紅一点」から得たもので、1946年10月に草田男が創刊した俳誌「萬緑」(2017年廃刊)にも使われている。

1939年(昭和14年)に詠まれた俳句で、この年に、「俳句研究」座談会に出席したことをきっかけに、石田波郷加藤楸邨とともに、草田男は「人間探求派」と呼ばれる。1937年に生まれた長女の成長もあり、充実した時間を過ごしていたものと思われる。

この俳句の意味は、「一面に生い茂る緑の中、我が子の歯も生え始めてきたことよ」という感じか。生命力あふれる、人生を賛美する俳句ととらえることができる。
この俳句の特徴としては、切字の「や」の位置から「中間切れ」と言われ、その中間切れの代表句のひとつでもある。上五・中七・下五とともに、切字の次の語の頭の韻を整え、上手くリズムをとっている。また、敢えて主観を織り込んだ「吾子」を用いることで自らの内面を深く照らそうとする、「人間探求派」の真骨頂ともいえる俳句である。

▶ 中村草田男の俳句

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