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後藤比奈夫 

首長ききりんの上の春の空 
父母に叱られさうな水着買ふ 
登山靴穿いて歩幅の決りけり 
東山回して鉾を回しけり 
蛞蝓といふ字どこやら動き出す 
献花いま百合の季節や原爆碑 
睡蓮の水に二時の日三時の日 
酒を温めて中堅社員たり 
水音と即かず離れず紅葉狩 
鹿寄せの喇叭夕べは長く吹く 
手袋に包むいちにち使ひし手 
兵糧のごとくに書あり冬籠 
双六の振出しのまづ花ざかり 
手拭の紙屋治兵衛も二の替 
つくづくと寶はよき字宝舟 
穂俵に乾ける塩のめでたさよ 
青蜜柑おのが青さに青ざめて 
歩板にも鰯のあぶら滲みつきて 
干し上げてさよりに色の生まれたる 
忍冬の花のこぼせる言葉かな 
泣くよりは笑ひながらに浮いてこい 
雨乞の井戸の深さに憶えあり 
黐の花こぼれたければ匂ふなり 
二又に咲く三椏もありしこと 
満天星の鈴も更紗に染まるとは 
白樺の花を覚えて穂高去る 
蟻地獄待つといふこと知つてをり 

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