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飯田龍太 

黒服の春暑き列上野出づ 
滝音はひかりを含み春の雲 
山の木に風すこしある薄暑かな 
梅を干す真昼小さな母の音 
みづうみにひかりをゆだね避暑期去る 
鎌倉をぬけて海ある初秋かな 
嶺聳ちて秋分の闇に入る 
老人の前の秋雨つよき谷 
新米といふよろこびのかすかなり 
大寒の一戸もかくれなき故郷 
初冬のまた声放つ山の鳥 
冬耕の兄がうしろの山通る 
破魔矢ゆきあとまたねむるなまこ壁 
緑陰をよろこびの影すぎしのみ 
去るものは去りまた充ちて秋の空 
一月の川一月の谷の中 
春の鳶寄りわかれては高みつつ 
どの子にも涼しく風の吹く日かな 
母の髪極暑まぶしき月照らす 
セルを着て村にひとつの店の前 
下刈りの男の夕日の蔓もどき 
うきうきと咲いて淋しき花八ツ手 

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