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森澄雄 

水あふれゐて啓蟄の最上川 
煙草吸ふや夜のやはらかき目借時 
青麦や湯の香りする子を抱いて 
炎天より僧ひとり乗り岐阜羽島 
越はいま植田たひらや寝もやすし 
梅干してきらきらきらと千曲川 
妊りて紅き日傘を小さくさす 
田を植ゑて空も近江の水ぐもり 
ぼうたんの百のゆるるは湯のやうに 
もののふの東にをりて西鶴忌 
猟男のあと寒気と殺気ともに過ぐ 
子が次に箸だすものに結昆布 
獅子舞の獅子さげて畑急ぐなり 
行く年や妻亡き月日重ねたる 
片隅に旅はひとりのかき氷 
赤貝のひもに終りし夜の鮓 
まぶしかる海に垣して黐の花 
はや寝落つ夜濯の手のシャボンの香 
傘寿なり神妙にして氷菓食ふ 
巴旦杏の影なす妻の若さ過ぐ 
夕凪や母とありにし真桑瓜 
行者宿泉に廻り甜瓜 
花李昨日が見えて明日が見ゆ 
ひとり来てひとり動けり三十三才 
西国の畦曼珠沙華曼珠沙華 

森澄雄初期の秀吟 [ 榎本好宏 ]
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