あるときは ふねよりたかき うなみかな
真砂女の人生を象徴する卯浪
女将俳人として知られた鈴木真砂女の代表的な俳句。真砂女の第一句集「生簀籠」(1955年)所収ではあるが、第二句集はこの俳句から「卯浪」(1961年)と題した。また、離婚して家を飛び出し、無一文から銀座に小料理屋を開いたが、その時もこの俳句からとって「卯波」と店に名付けた。
真砂女は、穏やかな卯月の海に時折押し寄せる高波をイメージしたという。船を越えるほどの浪だというのだから、実家であり、家を守るために義兄と再婚してあとを継いだ老舗旅館・吉田屋旅館の前に広がる太平洋の浪だろう。この俳句が詠まれた当時、冷めた夫婦生活をおくっていた夫が脳溢血で倒れ、介護状態になっている。そして、この俳句が掲載された句集を出して2年後に離婚し、小料理屋の女将となったのだ。
恐らくこの俳句は、日常の穏やかな風景の中で、飛び出そうかどうかと迷う気持ちを表現したものだろう。「船」は人生であり、その船を飲み込む「卯浪」に憧れを抱くまでに、追い込まれていたのだろう。この俳句こそが、真砂女の破天荒な人生を導いたのかもしれない。
のちに小料理屋を開く時、「浪」を「波」へと変えたが、そこには、大浪を鎮める時が来たとの思いが働いたのだと思う。
▶ 鈴木真砂女の俳句
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