きょうよりや かきつけけさん かさのつゆ
奥の細道の名句|離別に消える文字とは
松尾芭蕉、1689年(元禄2年)の「おくのほそ道」の「山中」に現れる句。8月5日(新暦9月18日)に、曾良と別れた時に詠まれた句。「おくのほそ道」には、以下のようにある。
曾良は腹を病て、伊勢の国長島と云所にゆかりあれば、先立て行に、
行行てたふれ伏とも萩の原 曾良
と書置たり。行ものゝ悲しみ、残ものゝうらみ、隻鳧のわかれて雲にまよふがごとし。予も又、
今日よりや書付消さん笠の露
7月27日(新暦9月10日)に到着した加賀の山中温泉に逗留中の事。しばらく前から体調を崩していた曾良が、長島藩の知人を頼るために、8月5日(新暦9月18日)に離れていった。その時に書き置かれた「行行てたふれ伏とも萩の原」に対して芭蕉が詠んだ句。
笠の内に書き付けていたであろう「同行二人」の文字を、笠に付いた露が消してしまうというような意味である。露は伝統的に涙に譬えられる。曾良との離別を悲しむ様子が、痛々しいまでに伝わる句である。
▶ 松尾芭蕉の句