俳句

頂上や殊に野菊の吹かれ居り

ちょうじょうや ことにのぎくの ふかれおり

「ホトトギス」大正元年12月号次巻頭となった原石鼎の俳句。この頃の原石鼎は医学専門学校を落第し、医師である兄の助手として奈良の吉野に滞在していた。そうして始めた「ホトトギス」への投句。この句は、はじめて実った6句のうちのひとつとなった。
その時の句に、「鹿垣の門鎖し居る男かな」「空山へ板一枚を荻の橋」「頂上や殊に野菊の吹かれ居り」「山川に高浪も見し野分かな」「山の日に萩にしまりぬ便所の戸」「鉞に裂く木ねばしや鵙の声」。ここから、大正ホトトギス作家の代表と目される原石鼎の活躍が始まった。

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句評「頂上や殊に野菊の吹かれ居り」

山本健吉「俳句」昭和61年3月号

これほど野菊の本情を捕えた句は、他に知らない。季語でも地名でも主観語でもないただの言葉を「頂上や」と無雑作に置き、「殊に」とさりげなくそのものの存在を取り出し、「吹かれ居り」と軽く結んださまが、野菊そのものの姿を彷彿とさせるのだ。この軽さ、さりげなさは、後のちまで石鼎の句の特徴の一つと思われる。