晩春の季語 柳
風見草(かざみぐさ)・遊び草(あそびぐさ)
日本で柳と言えば、主にシダレヤナギを指す。これは中国原産で、奈良時代に渡来した。雌雄の区分があり、日本で見られるもののほとんどは雄株。落葉性で、秋の終わりに一気に葉が散る。春には、葉をつけて、雌株は柳絮という綿毛を生じて実を飛散させる。
河畔に多く見られるのは、柳が水気の多い土地を好むことと、洪水で流されたものが茎伏せで繁殖したためである。また、生命力が強いことから、水害防止に水際に植えられてきた結果でもある。有名な「銀座の柳」も、同時に植えられた桜や松が、水害で枯死した結果残ったと言われている。
このようにシダレヤナギは、古くから街路樹として用いられてきた。これは、悪鬼を遠ざけるために植えられていた長安がモデルとなっており、長安を模して街づくりが行われた名残でもある。明治以降、桜がより好まれるようになるまで、街路樹と言えば柳であり、柳を取り上げた句も数多い。
しかし日本では、いつしか、シダレヤナギの枝を伝って霊が降りてくると言われるようになった。一般には、その佇まいが幽霊を連想させるからだと言われている。
ヤナギの漢字表記には「柳」と「楊」があり、枝が垂れ下がるシダレヤナギには「柳」、枝が立ち上がる種類には「楊」の字を当てる。万葉集では両方使われているが、明確な区分がなされているかは定かでない。次の歌は作者不詳の東歌。
楊奈疑こそ伐れば生えすれ世の人の 恋に死なむをいかにせよとぞ
「ヤナギ」の語源は「矢の木」であり、むかしは柳で矢が作られていた。
【柳の俳句】
ほんのりと日のあたりたる柳哉 志太野坡