晩春の季語 馬酔木
ツツジ科アセビ属の常緑低木で、山地に自生する。3月から4月頃に白い壺のような花をたくさんつけて、独特のにおいがある。園芸品種には、ピンクの花をつけるものもある。
「馬酔木」は「あせび」と読むだけでなく、「あしび」「あせぼ」などとも読む。ただ、ひらがな表記をすると、「あしび」は秋の季語「葦火」と、「あせぼ」は夏の季語「汗疹」と混同するので注意が必要である。また、花を強調するために「馬酔木の花」とすることが多く、「馬酔木花」と書いて「あせび」と読ませることもある。
馬がこの葉を食べると毒に当たり、酔ったようになるために「馬酔木」の名がついたと言われる。鹿が食べると角が落ちるとも語られ、鹿もこの木を食害しないため、奈良公園の浅茅ヶ原には馬酔木がよく見られる。
古くから日本人に親しまれてきた馬酔木は、万葉集にも10首ほど歌われ、謀反の疑いで処刑された大津皇子が二上山に葬られた時の大伯皇女の和歌
磯の上に生ふる馬酔木を手折らめど 見すべき君が在りと言はなくに
は有名である。
また、万葉集には馬酔木を詠みこんだ長歌もあるが、これには馬酔木の名所として知られた「草香の山」が登場する。そこでの馬酔木(あしび)は、「悪し」に掛けられたりしている。
俳句の世界では、季語というよりも反ホトトギス色の濃い俳誌「馬酔木(あしび)」の方をイメージすることが多いかもしれない。元は「破魔弓」だったが、水原秋桜子が参加してその古色を嫌い、「馬酔木」となった。