初秋の季語 松虫
直翅目バッタ目コオロギ科の昆虫。松虫と鈴虫の名は、時代や地域によって錯綜している。
古今要覧稿には、西暦900年頃は今と同じ、それから100年後には入れ替わっていたと書かれている。古今要覧稿の書かれた江戸時代中期には、現在と同じように呼ばれていたが、俳諧歳時記栞草には「今俗に、リンリンと鳴くを鈴虫といふはわろし、これ松虫也といへり。鈴虫は、チンチロリと鳴をいふといへり」との記述も見える。
なお、万葉の昔には、松虫も鈴虫も「こおろぎ」と呼ばれていた。古今和歌集には「松虫」が出現するが、ここでの松虫は、今で言う鈴虫のことと考えられている。詠み人知らずの歌に
秋の野に人まつ虫の声すなり 我かと行きていざとぶらはむ
があり、「待つ」に掛けて歌われている。
成虫は8月中旬から11月下旬にかけて出現し、オスの鳴き声は「チンチロリン」と聞きなし、文部省唱歌の「虫のこえ」にも歌われる。
在来種の体色は茶色であるが、明治時代に中国から入ったと言われる外来種・アオマツムシは鮮やかな緑色をしている。近年急速に生息域を拡げており、街路樹などの中で鈴のような音色で鳴く。
「松虫」の名前は、鳴き声を、澄んだ松風に見立ててつけられたと考えられている。
中国では虫の声を聞く文化があり、日本においても平安時代頃から、籠に入れて鑑賞が行われていた。さらに江戸時代になると、人工繁殖させた虫を売り歩く「虫売り」も行われるようになった。
【松虫の俳句】
寺よぎる風のあはひのちんちろりん 中川宋淵
【松虫の鳴き声】本州・四国・九州に分布し、8月中旬から11月にかけて鳴き声を聞くことが出来る。その鳴き声は、「チンチロリン」と聞きなす。(YouTube 動画)
【青松虫の鳴き声】明治時代に中国から帰化した外来種と言われており、現在では本州、四国、九州に分布している。8月中旬から11月にかけて、街路樹などでよく鳴いている。松虫の鳴き声とは全く異なる。(YouTube 動画)