岸田稚魚 ●
入学の日の雀らよ妻と謝す 季面あげて風の春駒磯いそぐ 季母死後の目に一杯や花杏 季茎立やおもはぬ方に月ありて 季なづな咲きふり返りても風の音 季鬼灯市夕風のたつところかな 季三つ咲いて空を占めたる朴の花 季地蔵会の犬舌鳴らす潦 季風の香の身につきそめし雁のころ 季泣顔の子にちかぢかと通草熟れ 季加はりて日向ぼこりに黙しゐる 季笹鳴や痩せし日射しを膝の上 季ややありて女のこゑや門礼者 季左義長やまつくらがりに海動き 季青北風や目のさまよへば巌ばかり 季寒波来こゑを失くして息を吐く 季胸ぐらに母受けとむる春一番 季少年の恋花氷痩せてあり 季刻々の大赤富士となりゐつつ 季七日喪の霜の甘藍呟きぬ 季覆面の瞳鰊の他は何も見ず 季からたちの花の昔の昔かな 季凸凹の坐りごこちの花筵 季風立つや坐り直して花筵 季暗き屋より海猫に似て婆のこゑ 季草木より人飜る雁渡し 季
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