草間時彦 ●
大磯に一庵のあり西行忌 季逢ひに行く開襟の背に風溜めて 季冷房にゐて水母めくわが影よ 季大粒の雨が来さうよ鱧の皮 季点滴の一滴づつの秋の暮 季まつくらな海がうしろに切子かな 季芋子汁振り向くたびに地蔵岳 季色鳥やきらきらと降る山の雨 季鈴虫を塞ぎの虫と共に飼ふ 季がうがうと黄落の音したりけり 季冬の夜や小鍋立して湖の魚 季窓の下を河流れゐる年忘れ 季百貨店めぐる着ぶくれ一家族 季籠青し翳かさねたる寒卵 季ポインセチアこころに人の棲まずなりぬ 季停年を妻言へり松納めつつ 季えんぶりの笛恍惚と農夫が吹く 季足もとはもうまつくらや秋の暮 季冬薔薇や賞与劣りし一詩人 季家裏に廻る夕日や花みづき 季金雀枝や妻子たむろす古畳 季初松魚燈が入りて胸しづまりぬ 季夕月は水色なせり黐の花 季椎の花友の境涯もてあそぶ 季クロッカス光を貯めて咲けりけり 季車組む道が乾けば道に出て 季公魚をさみしき顔となりて喰ふ 季金魚赤し賞与もて人量らるる 季
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