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藤田湘子 

ゆくゆくはわが名も消えて春の暮 
安曇野の真中に立てば山笑ふ 
茶摘唄ひたすらなれや摘みゐつつ 
けぶる日が一輪峡の春祭 
遍路杖倒れて情なかりけり 
木琴の音たんぽぽの花つくる 
愛されずして沖遠く泳ぐなり 
水の輪とかやつり草と祭かな 
あめんぼと雨とあめんぼと雨と 
鴎外も茂吉も紙魚に食はれけり 
初紅葉ひとの娘の婚期ふと 
酔さめて芋の鶴川村遠し 
冬蝶の夢見むとゐる伽藍かな 
うすらひは深山へかへる花の如 
筍や雨粒ひとつふたつ百 
揚羽より速し吉野の女学生 
天山の夕空も見ず鷹老いぬ 
湯豆腐や死後に褒められようと思ふ 
葭切に空瓶流れつく故郷 
赤き蛾の昼いでて舞ふ敗戦日 
耐へて咲く金盞花海の風つよし 
遠雪崩ひとりの旅寝安からず 

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