中村汀女 ●
秋草のすぐ萎るるをもてあそび 季たんぽぽや日はいつまでも大空に 季春宵の駅の時計の五分経ち 季あひふれしさみだれ傘の重かりし 季あはれ子の夜寒の床の引けば寄る 季とゞまればあたりにふゆる蜻蛉かな 季橋に聞くながき汽笛や冬の霧 季靴紐をむすぶ間も来る雪つぶて 季次の子も屠蘇を綺麗に干すことよ 季初刷に厨のものは湯気立つる 季わが影のすぐよぎりけり鳥総松 季ひとり摘む薺の土のやはらかに 季さし寄せし暗き鏡に息白し 季外にも出よ触るるばかりに春の月 季秋雨の瓦斯が飛びつく燐寸かな 季咳の子のなぞなぞあそびきりもなや 季抱く珠の貝のあはれを聞く冬夜 季突風や算を乱して黄水仙 季真上なる鯉幟まづ誘ひけり 季梅干して人は日蔭にかくれけり 季立秋の雨はや一過朝鏡 季霧見えて暮るゝはやさよ菊畑 季蕗のたうおもひおもひの夕汽笛 季●北風の奪へる声をつぎにけり 季わが部屋に湯ざめせし身の灯をともす 季真円き夕日霾なかに落つ 季黒板の遅日の文字の消し残し 季春暁や今はよはひをいとほしみ 季山こむる霧の底ひの猫の恋 季竈猫打たれて居りし灰ぼこり 季灯虫さへすでに夜更のひそけさに 季叩きたる氷の固さ子等楽し 季夕蜘蛛のつつと下り来る迅さ見る 季帰るべき細道見えて夕櫻 季横浜にすみなれ夜ごとの夜霧かな 季月に刃物動かし烏賊を洗ふ湖 季初富士にかくすべき身もなかりけり 季吾子の眼の即ちたのしお白酒 季ガソリンと街に描く灯や夜半の夏 季菖蒲湯の香のしみし手の厨ごと 季地下鉄の青きシートや単物 季単帯或る日は心くじけつゝ 季沖の帆にいつも日の照り紅蜀葵 季荒波の凪ぎし夜を借る夏布団 季夜濯ぎの更け来し水の澄みわたり 季おはぐろの舞ふとも知らで舞ひ出でし 季棕梠の花港の風も忘れじよ 季ここにして天草恋し樟若葉 季なでしこや人をたのまぬ世すごしに 季長雨の降るだけ降るや赤のまま 季歳晩の月の明さを身にまとひ 季雪投げをして教会に集り来 季慈善鍋晝が夜となる人通り 季春寒や出でては広く門を掃き 季まどろみの覚め白さびし花りんご 季ぼうぼうと燃ゆる目刺を消しとめし 季
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