俳句

あらたうと青葉若葉の日の光

あらとうと あおばわかばの ひのひかり

日光で思いのままに遊んだ芭蕉

あらたうと青葉若葉の日の光松尾芭蕉 元禄2年(1689年)の「おくのほそ道」の旅の「日光」にある句。「おくのほそ道」では下記のようにある。

卯月朔日、御山に詣拝す。往昔、此御山を「二荒山」と書しを、空海大師開基の時、「日光」と改給ふ。千歳未来をさとり給ふにや、今此御光一天にかゝやきて、恩沢八荒にあふれ、四民安堵の栖穏なり。猶、憚多くて筆をさし置ぬ。
 あらたうと青葉若葉の日の光
黒髪山は霞かゝりて、雪いまだ白し。
 剃捨て黒髪山に衣更 曾良
曾良は河合氏にして惣五郎と云へり。芭蕉の下葉に軒をならべて、予が薪水の労をたすく。このたび松しま。象潟の眺共にせん事を悦び、且は羇旅の難をいたはらんと、旅立暁髪を剃て墨染にさまをかえ、惣五を改て宗悟とす。仍て黒髪山の句有。「衣更」の二字、力ありてきこゆ。

四月一日(新暦5月19日)は前夜からの小雨の中、午前七時に鹿沼の宿を出て、降ったりやんだりする中を、昼に日光に到着して雨も止んだと、「曾良旅日記」にある。浅草の清水寺の書を養源院に届け、十五時前に東照宮を参拝している。
また、曾良の「俳諧書留」の「室八島」に、「あなたふと木の下暗も日の光」とあり、三月二十九日に詠まれたと考えられるこの「あなたふと」の句が初案であろう。

「あらたうと(あらたふと)」とは「あら尊し」の意味で、「日光」の旧称「二荒(ふたら・ふたあら)」に掛かる。前出の句の「あなたふと」だと「彼方(貴方)ふと」となることを考えると、より遊興性が増したと言えるだろう。また、「日の光」は「日光」の地名に掛かる。
この句の意味は、「生気みなぎる青葉若葉の上に落ちる日光の、何と尊いことよ」というような感じになる。ただ、この日は終日雨か曇りで、陽の光は拝めなかったものと見られる。
東照宮を賛美して、時の権力に阿る句だと考える者もいるが、「おくのほそ道」の趣向からして当てはまらないだろう。御山に祀られているのも、徳川家康ではなく、国家を造り固めた大国主をはじめとする神々である。

因みに二荒山は、男体山(黒髪山)を中心とする日光三山のこと。その神々は日光二荒山神社が祀っていたが、十七世紀はじめに江戸幕府が日光二荒山神社の聖域内に東照宮を創建した。「おくのほそ道」に記されるように、弘法大師空海が訪れた際、「二荒」を「日光」にしたとするが、空海の来訪は伝承の域を出ない。

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