蛤のふたみにわかれ行秋ぞ

はまぐりの ふたみにわかれ ゆくあきぞ

おくのほそ道の最後を飾る名句

蛤のふたみにわかれ行秋ぞ松尾芭蕉、1689年(元禄2年)の「おくのほそ道」の最後を彩る句。9月6日(新暦10月18日)、伊勢神宮の遷宮を拝もうとして、大垣の舟町から伊勢長島へと舟を出した時の句。その時の情景は、「大垣」の項にある。

露通も此みなとまで出むかひて、みのゝ国へと伴ふ。駒にたすけられて大垣の庄に入ば、曾良も伊勢より来り合、越人も馬をとばせて、如行が家に入集る。前川子、荊口父子、其外したしき人々日夜とぶらひて、蘇生のものにあふがごとく、且悦び、且いたはる。旅の物うさもいまだやまざるに、長月六日になれば、伊勢の遷宮おがまんと、又舟にのりて、 
 蛤のふたみにわかれ行秋ぞ

内宮の9月10日の遷座には間に合わず、9月13日の外宮の遷座式に芭蕉は参列している。
この句の「蛤」は、伊勢名物。「ふたみ」は伊勢の「二見浦」と貝の「蓋」「身」に掛かる。「旅立」項に「行春」で詠まれた「行春や鳥啼魚の目は泪」に対応した句である。
意味は、「蛤が蓋と身とに切り離されるように、秋が痛切に行ってしまおうとしている…」というような感じか。

なお、元禄二年九月二十二日付の杉風宛の書簡には、以下のようにある。

木因舟に而送り、如行其外連衆舟に乗りて三里ばかりしたひ候。
 秋の暮行先ゝは苫屋哉 木因
  萩にねようか荻にねようか はせを
 霧晴ぬ暫ク岸に立玉へ 如行
 蛤のふたみへ別行秋ぞ 愚句
  二見
 硯かと拾ふやくぼき石の露
先如此に候。以上
  九月廿二日  はせを

ここでは、「蛤のふたみへ別行秋ぞ」とある。これが初案か。「蛤のふたみにわかれ行秋ぞ」とすることで、主題である「別れ」がより現実的で身近なものに感じられる。

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