枯枝に鴉のとまりけり龝の暮

かれえだに からすのとまりけり あきのくれ

枯枝に鴉のとまりけり龝の暮松尾芭蕉、延宝8年(1680年)の句。曠野集(山本荷兮編1689年)には「かれ朶に烏のとまりけり秋の暮」で載る。芭蕉の評価を高め、一派を築く勢いをつくった一句。東日記(池西言水編1681年)には「枯枝に烏のとまりたるや秋の暮」で載り、初案とされる。
芭蕉俳画が伝わっており、「枯枝にからすのとまりたるや秋の暮」には複数、「かれえだにからすのとまりけり秋のくれ」には1羽の鴉が描かれている。

「とまりたるや」の初案に対し、驚きの感情が和らぎ、淡々と季節の移ろいを受け入れる様が際だつ。季節が春ならば再考することもなかったであろうが。
俳画に「からす」と入り、発音は「からす」で間違いはないのだろうが、「鴉」を「あ」と読めば、鴉を遠望する感が強まり、季節の移ろいの中に佇む感が、より色濃く感じられるような気がする。

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句評「枯枝に鴉のとまりけり龝の暮」

大島蓼太「芭蕉翁句解」1759年

此句ハ季吟はせを素堂一派新立の茶話口伝の一章なり 夫木集に 鳶からすねくらとやせんかねてより我身の肢のおそろしき哉 慈鎮和尚 これらの心によくかなへり 只一とせの花紅葉の栄枯をいふて 人間無常の観想もあるべし

竹内玄玄一「俳家奇人談」1816年

翁若かりし時談林中に交遊す、一日この句を唱ふ。衆人愕然として翁を上座に尊ぶ。幾程もなくして一派をなせりと。

鹿島神宮要石付近の句碑(茨城県鹿嶋市)

枯枝に鴉のとまりけり龝の暮地震を鎮めているとされる鹿島神宮の要石の近くに、この句碑がある。碑陰には「文政六年癸未九月洞海舎李尺建」と刻まれており、文政6年(1823年)9月に洞海舎李尺が建立したことが分かる。洞海舎李尺は、文政元年に「俳諧ありのまゝ」を編集した常陽(茨城県東部)の人。
句碑の横の立札には、以下のようにある。

龝は秋の旧字であり この句はこの地で詠まれた句ではないが状況が似ているので建てられたものと推察される

【撮影日:2016年6月27日】

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