俳句

梅が香や隣りは荻生惣右衛門

うめがかや となりはおぎゅう そうえもん

梅が香や隣りは荻生惣右衛門宝井其角による句とされ、当時は大変に有名となり、多くの人が口遊んだという。また、時代は下って夏目漱石は、この句をもとに「徂徠其角並んで住めり梅の花」と詠んでいる。ただ、「江戸名所図会」(天保年間)に「俳仙宝晋斎其角翁の宿」があり、

茅場町薬師堂の辺なりと云い伝ふ。元禄の末ここに住す。即ち終焉の地なり。按ずるに、梅が香や隣は萩生惣右衛門という句は、其角翁のすさびなる由、あまねく人口に膾炙す。よってその可否はしらずといえども、ここに注して、その居宅の間近きをしるの一助たらしむるのみ。

とある。現実に、荻生惣右衛門(荻生徂徠)が、其角の住んでいた場所の隣に蘐園塾を開いたのは、其角の死後2年が経過した1709年である。其角と荻生徂徠に面識はないという。
今ではこの句は、杉山杉風の弟子である松木珪琳のものだと言われている。けれども、「隣りは荻生惣右衛門」と詠まれたあたりは、其角を意識してのものだと言えるだろう。

其角の「梅が香や…」の句には、「梅が香や乞食の家も覗かるゝ」がある。現在になってこの2句を併せて鑑賞するなら、将軍吉宗に仕えた学者の、「徂徠豆腐」で知られる倹しい一面が、面白く浮かび上がってくる。


▶ 宝井其角の句



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