初夏の季語 芥子の花
地中海地方原産の、ケシ科ケシ属の一年草。ポピーとも呼ばれるヒナゲシとは区別する。また、「芥子」は「からし」とも読み、芥子菜をも指す。これは、その細かさで「芥子粒」ともよばれる種子が似ているためである。
日本へは室町時代に伝来したと見られるが、アヘンやモルヒネの原料となるため、現代ではあへん法で栽培が禁止されている。一部、薬などの研究のために栽培されることもあるが、栽培許可を受けて厳重に管理しなければならない。
芥子の草丈は1~2メートル、5月に紅・白・紫の花をつける。花が散ると、鶏卵大の芥子坊主をつけるが、この芥子坊主は、晩夏の季語になっている。
現代では見る事も叶わず、俳句に詠み込むにしてもヒナゲシやオニゲシを見ながら空想の世界に遊ぶしかないが、江戸時代の俳諧歳時記栞草では「罌粟の花」として、夏之部四月に分類され、以下のようにある。
時珍曰、一名象穀、一名米嚢、一名御米。其実の形、罌子(あうし)の如し。其米、粟の如し。乃ち穀に象て供御とすべし。故に諸名あり。秋種え、冬生ず。わか苗、蔬になして食ふ、甚佳し。葉、白苣の如く、三四月、薹を抽で、青苞を結ぶ。花ひらくときは、苞脱す。花、四弁、大きささかづきの如し。罌は花中にあり、しべこれをつつむ。花開て三日、即ち謝(わり)て罌、茎の頭にあり。長さ一二寸、大さ馬兜鈴の如し。上に蓋あり、下に蔕あり、宛然として酒罌の如し。中に白米あり、極めて細し。其花、変態常にあらず。白き者、紅の者、粉紅の者、杏黄の者、半紅の者、半白の者、故に麗春といひ、賽牡丹といふ。又錦被花といふ。
ここに、麻薬としての記述はない。なお、「罌」は甕のことである。
【芥子の花の俳句】
散り際は風もたのまずけしの花 宝井其角
散時の心安さよけしの花 越智越人