藤田湘子 ●
ゆくゆくはわが名も消えて春の暮 季安曇野の真中に立てば山笑ふ 季茶摘唄ひたすらなれや摘みゐつつ 季けぶる日が一輪峡の春祭 季遍路杖倒れて情なかりけり 季木琴の音たんぽぽの花つくる 季愛されずして沖遠く泳ぐなり 季水の輪とかやつり草と祭かな 季あめんぼと雨とあめんぼと雨と 季鴎外も茂吉も紙魚に食はれけり 季初紅葉ひとの娘の婚期ふと 季酔さめて芋の鶴川村遠し 季冬蝶の夢見むとゐる伽藍かな 季うすらひは深山へかへる花の如 季筍や雨粒ひとつふたつ百 季揚羽より速し吉野の女学生 季天山の夕空も見ず鷹老いぬ 季湯豆腐や死後に褒められようと思ふ 季葭切に空瓶流れつく故郷 季赤き蛾の昼いでて舞ふ敗戦日 季耐へて咲く金盞花海の風つよし 季遠雪崩ひとりの旅寝安からず 季
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