俳句

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平畑静塔 

えむぼたん一つ怠けて茂吉の忌 
黄落や或る悲しみの受話器置く 
寒菊に文字生きしまま灰の紙 
山姥は枝垂桜に紅を乞ふ 
徐々に徐々に月下の俘虜として進む 
藁塚に一つの強き棒挿さる 
胡桃割る聖書の万の字をとざし 
壺の国信濃を霧のあふれ出づ 
座る余地まだ涅槃図の中にあり 
身半分かまくらに入れ今晩は 
積草の青き底まで端午の日 
枯すすき海はこれより雲の色 
うすら氷の模様の底や常闇に 
猫の子の鈴も中也の詩を訪ひに 
のり出して日輪ゆらぐ寒造 
投票に出るや一本野川澄み 
秋服や人の絶信袂より 

平畑静塔俳論集 慶老楽事 [ 平畑静塔 ]
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