山口誓子 ●
さじなめて童たのしも夏氷 季海に出て木枯らし帰るところなし 季 (遠星)●麗しき春の七曜またはじまる 季名ある星春星としてみなうるむ 季つきぬけて天上の紺曼珠沙華 季ひとり膝を抱けば秋風また秋風 季一輪の花となりたる揚花火 季凍港や旧露の街はありとのみ 季学問のさびしさに堪へ炭をつぐ 季 (凍港)夕焼けて西の十万億土透く 季 (晩刻 )太陽の出でて没るまで青岬 季 (方位)巨き船出でゆき蜃気楼となる 季遠足の女教師の手に触れたがる 季天耕の峯に達して峯を越す 季岩の間に手をさし入れて磯遊び 季塩田のゆふぐれとなる遍路かな 季ラレレラと水田の蛙鳴き交す 季炎天の遠き帆やわがこころの帆 季扇風器大き翼をやすめたり 季満開の海の岩岩船遊び 季蛍獲て少年の指みどりなり 季瓜貰ふ太陽の熱さめざるを 季死がちかし星をくぐりて星流る 季運動会庭の平を天に向け 季いつも忌に横顔の子規老いし子規 季一湾の潮しづもるきりぎりす 季手袋の十本の指を深く組めり 季ラグビーのジャケツちぎれて闘へる 季悴む手女は千も万も擦る 季除夜の鐘吾身の奈落より聞ゆ 季寄りて見る茶の花の蘂うひうひし 季よるべなく光あかるし夏の浜 季秋の燈が漁家より海へ乗り出す 季晩春の瀬々のしろきをあはれとす 季探梅や遠き昔の汽車に乗り 季察察と寒鴉の翼静臥の上 季臼を碾きやみし寒夜の底知れず 季草の穂を日に照らされて野は隠る 季開放の夏期大学を覗くもの 季麦の秋雀等海へ出てかへす 季虹のぼりゆき中天をくだりゆき 季一点の偽りもなく青田あり 季両肩に海南風の翼負ふ 季鏡中に西日射し入る夕立あと 季炊煙がかしこき松に夏まひる 季南風つのり湖東の城の鳴りわたる 季昼花火天の裂目にひびきわたる 季どこにこのしぶとき重さ西瓜抱く 季堪へがたし稲穂しづまるゆふぐれは 季水蜜桃を徒弟が顎にしたたらす 季ラグビーの巨躯いまもなほ息はずむ 季緯度高く船の暖房通ひそむ 季ことごとく木枯去って陸になし 季虎落笛叫びて海に出て去れり 季スバルけぶらせて寒星すべて揃ふ 季猫柳高嶺は雪をあらたにす 季せりせりと薄氷杖のなすまゝに 季霞濃し胸おしつくる海の柵 季海暮れてキヤムプの尖り目には立たぬ 季けふも奈良ホテル春雨に樋鳴れり 季山窪は蜜柑の花の匂ひ壺 季星はみな西へ下りゆく猫の恋 季匙なめて童たのしも夏氷 季まだ誰も憇はず海の葭簀張 季鰯船火の粉散らして闇すすむ 季紅鼻の感冒の神父と坂登る 季除夜零時過ぎてこころの華やぐも 季流氷や宗谷の門波荒れやまず 季雪挿しに長路のスキー休めあり 季早苗挿す舞の仕草の左手右手 季吾を離さず山寺の女郎蜘蛛 季ほのかなる少女のひげの汗ばめる 季回廊を鹿の子が駆くる伽藍かな 季鮪の船水平線を突き上ぐる 季鱚釣や青垣なせる陸の山 季鍛治の火に鰶焼くと見て過ぎつ 季太刀魚の太刀に細かき鱗あり 季夏の河赤き鉄鎖のはし浸る 季蛍獲て少年の指緑なり 季夏草に汽罐車の車輪来て止る 季冷水を湛ふ水甕の底にまで 季大いなる青峯の下最上川 季花楓なほ稚なき女のありて 季喧嘩していまは宝珠の無き神輿 季藤椅子や海の傾き壁をなす 季ケーブルの下に登山の驢馬の道 季ボート裏返す最後の一滴まで 季しづかなる洲に来てヨット寄りゐたり 季赤鱝の広鰭潮を搏ち搏てる 季蟷螂の生れて既に永とゐる 季妻も濡る青き蕃茄の俄雨 季鉄路にも川にも沿へる麒麟草 季岩窪に深き海ある黒菜かな 季掘り下げし底の見られて秋の土 季はたはたはわぎもが肩を越えゆけり 季玄海の冬濤を大と見て寝ねき 季咳くや星のうつれる町の川 季捕鯨船嗄れたる汽笛をならしけり 季唐太の天ぞ垂れたり鰊群来 季蟻地獄みなゆふかげを地獄にし 季
【中古】 山口誓子句集ー自選自解・現代の俳句5 (山口 誓子 ) / 白凰社 [単行本]【宅配便出荷】35254円(税込/送料別)カード利用可・海外配送不可・翌日配送不可【通常24時間以内出荷】 【もったいない本舗 おまとめ店】