名月や池をめぐりて夜もすがら

めいげつや いけをめぐりて よもすがら

池を巡っているものは何か?

名月や池をめぐりて夜もすがら松尾芭蕉、貞亨3年8月15日(1686年10月2日)、芭蕉庵における月見の会での句。「孤松集」(江左尚白1687年)所収。「雑談集」(宝井其角1691年)に、

丁卯のとし
芭蕉菴の月みんとて、舟催して参りたれば、
 名月や池をめぐつて夜もすがら 翁
すゝめて舩にさそひ出しに、清影をあらそふ客の舟、大橋に圻れてさはぎければ、淋しき方に漕廻して、各句作をうかゞひけるに、仙化が従者、舳のかたに酒あたゝめて有ながら、
 名月は汐にながるゝ小舟哉 吼雲
翁をはじめ、我々も、かつ感じ、かつ耻て、九ツを聞て帰りにけり。羽化登仙の二字仙化に有とて、雲に吼けんの心をとり、連衆みな半四郎とは云ざりけり。その後も秀句多し。

とある。
「夜もすがら」は、「一晩中」の意。「池」は、同年春に「古池や蛙とびこむ水の音」を詠んだ芭蕉庵の池である。その後、目の前の隅田川に浮かべた舟に乗り込んだと見える。

「名月」は仲秋の名月で、意味は「満月を眺めながら一晩中池をめぐっていたことよ」と捉えられることが多い。雑談集では、この句を発句として船に乗り込み、句会が開催されたことがうかがわれる。
そこに描かれた人臭さを思うに、芭蕉がクローズアップしたかったものは、池を巡る人間ではなかったであろう。雑然とした世界を超越した宇宙へ思いを馳せ、「清らかな月影が、一晩中池の上にあったことよ」と、芭蕉は言っているのだと思う。

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