短夜や乳ぜり泣く児を須可捨焉乎

みじかよや ちぜりなくこを すてちまをか

台所俳句が生み落した骨太い輝き

大正9年(1920年)に「ホトトギス」8月号巻頭句となった竹下しづの女の俳句。前年頃より俳句を始め、この年からホトトギスに投稿し始めて、3回目で獲った巻頭である。
漢文を用いた「須可捨焉乎」は、「すべからく捨てるべきか」という表現になり、ここでは「すてちまをか」と読ませる。季語は「短夜」で夏。前年に次男が生まれ、この時点で2男2女を抱えている。


ホトトギスの高浜虚子は当時、女性への俳句普及に腐心しており、長谷川かな女杉田久女を発掘し、台所雑詠欄からはじまった台所俳句が評価を得ていた。そこに竹下しづの女も飛び込んだわけだが、短時間で虚子の目に留まるようになったのは、従来の台所俳句にはない骨太さが主因であっただろう。
意味は、「夏の夜に乳を求めて泣く子なんぞ、捨てちまおかな」というような感じ。衝動を表現しつつも、母としての強さが感じられる俳句である。ここには良妻賢母の主張はなく、日々を懸命に生きる人間の輝きがある。

▶ 竹下しづの女の俳句

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