うきことを くらげにかたる なまこかな
反乱の予感|海月と海鼠の会話内容について考える
「春泥発句集」(1777年)所収の黒柳召波の句。現代では海月は夏の季語、海鼠は冬の季語に分類されるが、春泥発句集では冬之部「海鼠」の項に掲載されている。
「海月」には「暗げ」が掛かる。また、海鼠は海底に生活する生物で、「憂き」には海月の属性である「浮」が掛かる。召波の師の与謝蕪村に、「思ふこといはぬさまなる海鼠かな」の句があり、それに対応した句であると思われる。
さらにこの句の面白み・滑稽さを味わうなら、神話を捲ってみるのもいい。古事記の「猨女の君」の項に海鼠が出てくる。天の宇受売が魚を集めて、「天つ神の御子に仕えまつるか」と聞いたところ、海鼠だけが何も言わなかったため口を裂かれたとある。因みに「天つ神」は太陽神であるアマテラスのこと。アマテラスには「月」の神ツクヨミと、「海」の神スサノオの、二柱の兄弟神が存在する。
この「憂きことをクラゲに語る海鼠かな」は、ストレートに意味を捉えると、「心配事を海鼠が海月に語っているよ」ということになる。上記を踏まえて意味を考えると、言論の自由を奪われた身の者が、支配者の関係者に、こっそりと反乱を起こすことを相談している様子を見ることもできる。
▶ 黒柳召波の句
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