野村朱鱗洞 ●
淋しき花があれば蝶蝶は寄りて行きけり 季風ひそひそ柿の葉落としゆく月夜 季小さき火に炭起し話し暮れてをり 季いち早く枯れる草なれば実を結ぶ 季するする陽がしずむ海のかなたの國へ 季繚乱の花のはるひをふらせる 季かがやきのきはみしら波うち返し 季早う日かげる家なればつくつくほうし 季しくしくと蝉鳴き暮の雨光る 季かまどの火に寄れば幼き日に燃ゆる 季舟をのぼれば島人の墓が見えわたり 季いつまで枯れてある草なるぞ火を焚くよ 季あかつきかけて雪消す雨のそそぎ居り 季人の前にて伸べし手のかばかりに汚れ 季いと高き木が一つさやぎやまぬかな 季ふうりんにさびしいかぜながれゆく 季若葉冷えゆく星の光なり 季風を青み野をはろばろと林あり 季かそけき月のかげつくりゆく蟲の音よ 季わが淋しき日にそだちゆく秋芽かな 季よさめよさめ餘所の町の灯に仰ぐ 季
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