俳句例句(季語から)



しんしんと肺碧きまで海のたび  篠原鳳作
大戦起るこの日のために獄をたまわる  橋本夢道
分け入つても分け入つても青い山  種田山頭火(草木塔)
浮いてこい浮いてこいとて沈ませて  京極杞陽
いつせいに柱の燃ゆる都かな  三橋敏雄
かもめ来よ天金の書をひらくたび  三橋敏雄
戦争が廊下の奥に立つてゐた  渡辺白泉
銃後といふ不思議な町を丘で見た  渡辺白泉
玉音を理解せし者前に出よ  渡辺白泉
遺品あり岩波文庫「阿部一族」  鈴木六林男
非常口に緑の男いつも逃げ  田川飛旅子
幾千代も散るは美し明日は三越  攝津幸彦
階段を濡らして昼が来てゐたり  攝津幸彦
我講義軍靴の音にたゝかれたり  井上白文地
鉛筆の遺書ならば忘れ易からむ  林田紀音夫
黄の青の赤の雨傘誰から死ぬ  林田紀音夫
月花の三句目を今しる世哉  野々口立圃
世の中はさらに宗祇の宿りかな  松尾芭蕉
此の道しかない一人であるく  大山澄太
猫の妻いかなる君のうばひ行く  烈女
稲つむと見せて失せけり秋の坊  近藤李東
年もはやなかばながれつ御祓河  山口素堂
憲兵の前で滑って転んぢやつた  渡辺白泉
陰もあらはに病む母見るも別れか  荻原井泉水
こしらへて有とはしらず西の奧  早野巴人
満点の星に旅ゆくマストあり  篠原鳳作
船窓に水平線のあらきシーソー  篠原鳳作
幾日はも青うなばらの圓心に  篠原鳳作
幾日はも青海原の圓心に  篠原鳳作
甲板と水平線とのあらきシーソー  篠原鳳作
松島や果てはかなしや夕ながめ  久村暁台
富士の山見ながらしたき頓死かな  辻嵐外
盥から盥に移るちんぷんかん  小林一茶
なくなくも小さき草鞋もとめかね  向井去来
おもしろきこともなき世をおもしろく  高杉晋作
八十里腰抜け武士の越す峠  河井継之助
幾年の白髪も神の光りかな  向井去来
土金や息はたえても月日あり  遠藤曰人
やるせなき音や馴染の松の雨  鶴田卓池
金爛帯かがやくをあやに解きつ巻き巻き解きつ  河東碧梧桐
もりもり盛りあがる雲へあゆむ  種田山頭火
おもひでがそれからそれへ酒のこぼれて  種田山頭火
風立ちぬ深き睡りの息づかひ  日野草城
わが詩や真夜に得てあはれなりにけり  日野草城
青きものはるかなるものいや遠き  加藤楸邨
さすらいに入浴の日あり誰が決めた  金子兜太
さすらいに入浴ありと親しみぬ  金子兜太
河より掛け声さすらいの終るその日  金子兜太
陽の柔わら歩ききれない遠い家  金子兜太
するする陽がしずむ海のかなたの國へ  野村朱鱗洞
かがやきのきはみしら波うち返し  野村朱鱗洞
かまどの火に寄れば幼き日に燃ゆる  野村朱鱗洞
舟をのぼれば島人の墓が見えわたり  野村朱鱗洞
人の前にて伸べし手のかばかりに汚れ  野村朱鱗洞
いと高き木が一つさやぎやまぬかな  野村朱鱗洞
風を青み野をはろばろと林あり  野村朱鱗洞
よさめよさめ餘所の町の灯に仰ぐ  野村朱鱗洞
凡そ天下に去来ほどの小さき墓に詣りけり  高浜虚子(五百句)
由公の墓に参るや供連れて  高浜虚子
此墓に系図はじまるや拝みけり  高浜虚子
闇の夜も又おもしろや水の星  上島鬼貫
一畳は浮世の欲や二畳庵  栗田樗堂
みどりゆらゆらゆらめきて動く暁  荻原井泉水
怒にかつとして夢であったか  荻原井泉水
男と女あなさむざむと抱き合ふものか  荻原井泉水
どうしようもないわたしが歩いている  種田山頭火
灯をともし潤子のやうな小さいランプ  富沢赤黄男
たのむ洋傘に無数の泡溜め笑う盲人  赤尾兜子
酔ざめの風のかなしく吹きぬける  種田山頭火
おもひでは波音がたかくまたひくく  種田山頭火
今日のをはりのうつくしや落日  種田山頭火
夜明けの戸茜飛びつく塩の山  沢木欣一
何となう死にに来た世の惜しまるゝ  夏目漱石
さしむかふ心は清き水かがみ  土方歳三
ポケットに星屑ありし昭和かな  高野ムツオ
シャツ雑草にぶっかけておく  栗林一石路
島一つ土産に欲しい鷲羽山  難波天童
広島や卵食ふ時口ひらく  西東三鬼
弯曲し火傷し爆心地のマラソン  金子兜太
ついてくる犬よおまへも宿なしか  種田山頭火
梅やなぎさぞ若衆かな女かな  松尾芭蕉
鶴亀も下戸にはあらじ膳飛羅起  石井雨考

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