高野素十 ●
ひつぱれる糸まつすぐや甲虫 季方丈の大庇より春の蝶 季 (初鴉)繭玉や夕はやけれど灯しけり 季くもの糸ひとすぢよぎる百合の前 季小説を立てならべたる上に羽子 季甘草の芽のとびとびのひとならび 季 (ホトトギス)●空をゆく一とかたまりの花吹雪 季元日は大吹雪とや潔し 季年酒酌むふるさと遠き二人かな 季翅わつててんたう虫の飛びいづる 季づかづかと来て踊子にささやける 季薮入の母の焚く炉の煙たさよ 季なかなかに暮れぬ人出や花火まつ 季食べてゐる牛の口より蓼の花 季門弟の中のわが子や寒稽古 季あをあをと春七草の売れのこり 季いくつかの藍の言葉を女より 季街路樹の夜も落葉をいそぐなり 季探梅や枝のさきなる梅の花 季鴨渡る明らかにまた明らかに 季青桐の向ふの家の煙出し 季客ありて筍掘の小提灯 季桃青し赤きところの少しあり 季虫聞くや庭木にとどく影法師 季冬の蜂おさへ掃きたる箒かな 季漂へる手袋のある運河かな 季風吹いて蝶々迅く飛びにけり 季初蝶にかたまり歩く人数かな 季ひとならび甘草の芽の明るさよ 季野に出れば人皆やさし桃の花 季夕遍路雨もほつほつ急ぎ足 季わが星のいづくにあるや天の川 季蟷螂のとぶ蟷螂をうしろに見 季惜春の座に一人の狂言師 季雨少し雷少し第一夜 季猟犬は眠り主は酒を酌む 季川水を恋ふとはあはれ螢烏賊 季梅を貰ひ梅酒を貰ひ水戸一泊 季海地獄美し春の湖より 季上人に一人の客や残る花 季夏雲の下に砂金の町遠し 季菖蒲葺く庇の下を通ひ舟 季村の者来て夜語りや誘蛾燈 季雨やめば浜ひるがほを見に行かん 季蝶歩く百日草の花の上 季秋雷や旧会津領山ばかり 季つぎつぎと茗荷の花の出て白き 季一人にて渡舟にも乗り冬の山 季来る人に灯影ふとある雁木かな 季樏の高みを越えて行きしあと 季柴漬や簀建の中の波こまか 季弘法寺の坂下り来れば鶏合 季道ばたに早蕨売るや御室道 季
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