能村登四郎 ●
世に柔しき男が殖えて麗なり 季瓜人先生羽化このかたの大霞 季田にすこし潤ひ出でて一の午 季流し雛見えなくなりて子の手とる 季夏めく灯に吾子が欲りするバレー靴 季出てすこし胸張るこころ炎天下 季霧をゆき父子同紺の登山帽 季潮焼にねむれず炎えて男の眼 季薔薇食べるなら血の色の花がよし 季蛍袋に指入れて人悼みけり 季彼も亦無名期ながし黍嵐 季流燈の終のひとつを闇が追ふ 季蓑虫の寝ねし重りに糸ゆれず 季葉ごもる桃午後といふ語をさびしめり 季身を裂いて咲く朝顔のありにけり 季火を焚くや枯野の沖を誰か過ぐ 季毛皮夫人にその子の教師として会へり 季思はざる急流とあふ探梅行 季匂ひ艶よき柚子姫と混浴す 季薄墨がひろがり寒の鯉うかぶ 季初あかりそのまま命あかりかな 季着る時の羽織裏鳴る淑気かな 季靴大き若き賀客の来てゐたり 季夢いくつ見て男死ぬゐのこぐさ 季焼薯をぽつかりと割る何か生れむ 季あたたかく野の靄つつむ忘れ鍬 季指先の傷やきのふの蓬摘み 季行く春を死でしめくくる人ひとり 季春ひとり槍投げて槍に歩み寄る 季鱧の酢や満座の酔に酔はずをり 季蛸壺に鳴く声のして覗きけり 季さびしさが焼きころがして螢烏賊 季終車駅に酔客となり夏惜しむ 季竹酔日胡麻を煎る香の中にあり 季冷やされし馬なりすれちがひざま匂ふ 季烈風や金雀枝いまが狂ひどき 季
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