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細見綾子 

チューリップ喜びだけを持つてゐる 
蛍火の明滅滅の深かりき 
青梅の最も青き時の旅 
そら豆はまことに青き味したり 
吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる 
くれなゐの色を見てゐる寒さかな 
曼陀羅の地獄極楽しぐれたり 
寒卵二つ置きたり相寄らず 
陶工の手に止りたる冬の蜂 
夜をこめて大根を煮る小正月 
どんど焼海際に大崩れせり 
十二神将怒り秋日を強めたり 
女身仏に春落剝のつづきをり 
つばめつばめ泥が好きなる燕かな 
青嶺眉にある日少しの書を読めり 
花火屑おしろい花に掃き寄せて 
去ぬ燕ならん幾度も水に触る 
二人居の一人が出でて葱を買ふ 
春近し時計の下に眠るかな 
来て見ればほほけちらして猫柳 
赤幣をかざせば春野濃かりけり 
奥美濃のなかなか消えぬ春の虹 
まぶた重き仏を見たり深き春 
遠雷のいとかすかなるたしかさよ 
蜂さされが治れば終る夏休み 
桜えびすしに散らして今日ありぬ 
オリーヴ葉カレーに煮込み酷暑なる 
棉の花音といふものなき所 
仮住みや棗にいつも風吹いて 
夕虻がうなりて戻る林檎の花 

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