細見綾子 ●
チューリップ喜びだけを持つてゐる 季蛍火の明滅滅の深かりき 季青梅の最も青き時の旅 季そら豆はまことに青き味したり 季吾亦紅ぽつんぽつんと気ままなる 季くれなゐの色を見てゐる寒さかな 季曼陀羅の地獄極楽しぐれたり 季寒卵二つ置きたり相寄らず 季陶工の手に止りたる冬の蜂 季夜をこめて大根を煮る小正月 季どんど焼海際に大崩れせり 季十二神将怒り秋日を強めたり 季女身仏に春落剝のつづきをり 季つばめつばめ泥が好きなる燕かな 季青嶺眉にある日少しの書を読めり 季花火屑おしろい花に掃き寄せて 季去ぬ燕ならん幾度も水に触る 季二人居の一人が出でて葱を買ふ 季春近し時計の下に眠るかな 季来て見ればほほけちらして猫柳 季赤幣をかざせば春野濃かりけり 季奥美濃のなかなか消えぬ春の虹 季まぶた重き仏を見たり深き春 季遠雷のいとかすかなるたしかさよ 季蜂さされが治れば終る夏休み 季桜えびすしに散らして今日ありぬ 季オリーヴ葉カレーに煮込み酷暑なる 季棉の花音といふものなき所 季仮住みや棗にいつも風吹いて 季夕虻がうなりて戻る林檎の花 季
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