秋元不死男 ●
馬を見て年酒の酔の発しけり 季満開の花の中なる虚子忌かな 季はるばると海よりころげきし栄螺 季鋸に乗られて支ふうまごやし 季せせらぎや駈けだしさうに土筆生ふ 季一口の若布汁熱ければさぞ 季蟻這はすいつか死ぬ手の裏おもて 季子を殴ちしながき一瞬天の蝉 季虱背をのぼりてをれば牢しづか 季 (瘤)冬シャツ抱へ悲運の妻が会ひにくる 季 (瘤)寝ねて不良の肩のやさしく牢霙る 季 (瘤)やや寒の象に曳かるる足鎖 季運動会少女の腿の百聖し 季頼りなき菊人形と別れけり 季終戦日妻子入れむと風呂洗ふ 季火だるまの秋刀魚を妻が食はせけり 季莨火をかばふ埋立冬一色 季隆々と一流木の焚火かな 季へろへろとワンタンすするクリスマス 季 (瘤)●田作や河童に入歯なかるべし 季馬に逢ひ年酒の酔の発しけり 季切手売る初髪の紅一点嬢 季読初の相聞訛る東歌 季初夢に一寸法師流れけり 季鳥わたるこきこきこきと罐切れば 季 (瘤)●愛欲やしかし夕焼を眼に入れて 季去年のまゝ塀と冬空声もなし 季白壁の浅き夢みし蝶の春 季ひとつ見えて秋燈獄に近よらず 季女髪より枯草を取り別れけり 季三月やモナリザを賣る石畳 季雨着透く春分の日の船の旅 季遠景を寝棺過ぎゆく蜂の声 季水澄みて亡き諸人の小声かな 季蚊柱見て遺言めきし語をはさむ 季恋過ぎて南風に浜雀乗る 季炎昼に製氷の角をどり出る 季冬蜂の尻てらてらと富士の裾 季満月に葱折れてより交を絶つ 季年の瀬や浮いて重たき亀の顔 季満潮が冬星のせて岩たたく 季ねたきりのわがつかみたし銀河の尾 季富士の根にわが眠る鳥わたりけり 季蛙鳴きまくる対岸に作家ゐて 季飯炊いて妻旅に立つ雨蛙 季耿々と河鹿の笛に渓の天 季死の見ゆる日や山中に栗おとす 季太陽がまぶしさ嫌ふ雪達磨 季籠のぞく夕日明りに落鰻 季降る雪に胸飾られて捕へらる 季 (瘤)捕へられ傘もささずよ眼に入る雪 季 (瘤)春の埃空や巷に馬匂ふ 季夏の暁安全地帯そこここに 季煌々と夏場所終りまた老ゆる 季恋難し石榴の花は実の先に 季車内に浅蜊歳若きほど無礼者 季