川端茅舎 ●
一枚の餅のごとくに雪残る 季ぜんまいののの字ばかりの寂光土 季 (華厳)どくだみや真昼の闇に白十字 季 (華厳)約束の寒の土筆を煮て下さい 季 (白痴)●桜鯛かなしき目玉くはれけり 季日天子寒のつくしのかなしさに 季 (白痴)寒のつくしたづねて九十九谷かな 季 (白痴)寒の野のつくしをかほどつまれたり 季 (白痴)寒の野につくしつみますおんすがた 季 (白痴)蜂の子の如くに寒のつくづくし 季 (白痴)寒のつくし法悦は舌頭に乗り 季 (白痴)寒のつくしたうべて風雅菩薩かな 季 (白痴)草餅の柔かければ母恋し 季土不踏ゆたかに涅槃し給へり 季蜂の尻ふはふはと針をさめけり 季此石に秋の光陰矢のごとし 季舷のごとくに濡れし芭蕉かな 季ひらひらと月光降りぬ貝割菜 季初春の二時うつ島の旅館かな 季蝶の空七堂伽藍さかしまに 季繽紛と飛燕の空となりにけり 季風薫る鹿島の杉は剣なる 季御空より発止と鵙や菊日和 季白樺の霧にひびける華厳かな 季法師蝉しみじみ耳のうしろかな 季新涼や白きてのひらあしのうら 季畑大根皆肩出して月浴びぬ 季一天や鶯の声充ち満ちぬ 季朴散華即ちしれぬ行方かな 季金剛の露ひとつぶや石の上 季夏痩せて腕は鉄棒より重し 季白露に阿吽の旭さしにけり 季白露に金銀の蝿とびにけり 季ひろびろと露曼荼羅の芭蕉かな 季露散るや提灯の字のこんばんは 季蛙の目越えて漣又さゞなみ 季紀三井寺漁火の上なる春灯 季平林寺門前竹の秋の関 季蝶々にねむる日蓮大菩薩 季雪晴の障子細目に慈眼かな 季しんしんと雪降る空に鳶の笛 季月の雪あをあを闇を染めにけり 季物陰に月の雪あり一とちぎれ 季渦巻いて芒は雪を被り居り 季誰か来るみつしみつしと雪の門 季雪模様卒都婆の垣をかためけり 季スキーの娘中禅寺湖を眼に湛へ 季夜もすがら汗の十字架背に描き 季夕空の土星に秋刀魚焼く匂ひ 季兜虫み空へ兜ささげ飛ぶ 季河骨の金鈴ふるふ流れかな 季からくりの鉦うつ僧や閻魔堂 季翡翠の影こんこんと溯り 季夏薊礎石渦巻くおそろしき 季しんしんと夜の光の草茂る 季金輪際わり込む婆や迎鐘 季茴香の夕月青し百花園 季頬白やひとこぼれして散りぢりに 季放屁虫かなしき刹那刹那かな 季鉈豆の鋭きそりに澄む日かな 季亀甲の粒ぎつしりと黒葡萄 季