久保田万太郎 ●
冬紅葉冬のひかりをあつめけり 季秋風のふきぬけゆくや人の中 季時計屋の時計春の夜どれがほんと 季淡雪のつもるつもりや砂の上 季はつ午や煮しめてうまき焼豆腐 季扇風機止めれば雨の音のまた 季一つ追ひをれば二つに夜の蠅 季芍薬のはなびらおつるもろさかな 季神田川祭の中をながれけり 季 (草の丈)●草の花ひたすら咲いてみせにけり 季かたまりて咲きて桔梗の淋しさよ 季年用意靄あたたかき日なりけり 季湯豆腐やいのちのはてのうすあかり 季みたくなき夢ばかりみる湯婆かな 季竹馬やいろはにほへとちりぢりに 季 (道芝)●寒詣かたまりてゆくあはれなり 季あらひたる障子立てかけ一葉忌 季わかくさのいろも添へたり切山椒 季ふゆしほの音の昨日をわすれよと 季わが胸にすむ人ひとり冬の梅 季鎌倉の夜長にはかに到りけり 季去年よりの雪小止みなき初湯かな 季いつ濡れし松の根方ぞ春しぐれ 季 (流寓抄)さゞなみをたゝみて水の澄みにけり 季はや夏に入りたる波の高さかな 季耳もとに波のわきたつ南風かな 季かなかなの鈴ふる雨となりにけり 季熱燗やふすまあくたびあぐる顏 季冬来る平八郎の鯉の図に 季冬椿世をしのぶとにあらねども 季叱られて目をつぶる猫春隣 季春眠をむさぼりて悔なかりけり 季囀りや己のみ知る死への道 季春の灯のあるひは暗くやはらかく 季ふる雨のおのづから春の夕かな 季竹の秋道山科に入りにけり 季庭木刈つてみゆる東京タワーの灯 季とある日の銀杏もみぢの遠眺め 季春塵やいつひろごりし生活の輪 季やゝつよき地震すぎたる葭戸かな 季蜻蛉生れ水草水になびきけり 季夏菊のなにか哀しき話かな 季海蠃うちの廓ともりてわかれけり 季うち晴れし淋しさみずや獺祭忌 季あさがほのはつのつぼみや原爆忌 季雨ふるとのみおもほへる朝寝かな 季
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