山口青邨 ●
咲きみちて庭盛り上がる桜草 季人も旅人われも旅人春惜しむ 季みちのくの町はいぶせき氷柱かな 季 (ホトトギス)●ある日妻ぽとんと沈め水中花 季はなやかに沖を流るる落椿 季みちのくの雪深ければ雪女郎 季外套の裏は緋なりき明治の雪 季祖母山も傾山も夕立かな 季われが住む下より棺冬の雨 季銀杏散るまつただ中に法科あり 季ゼンマイは椅子のはらわた黴の宿 季たんぽぽや長江濁るとこしなへ 季ももいろの羽を帽子に復活祭 季ともしびにうすみどりなる春蚊かな 季蕗の薹傾く南部富士もまた 季蟷螂の如き裸婦見て二科を出づ 季火美し酒美しやあたためむ 季待つことは長し栗の実落つることも 季いただきに金の雨ふり葉鶏頭 季紫苑にはいつも風あり遠く見て 季その前をきれいに掃いて飾売る 季雑炊もみちのくぶりにあはれなり 季みちのくの乾鮭獣の如く吊り 季実朝の歌ちらと見ゆ日記買ふ 季鴛鴦の沓波にかくるることもあり 季初空の藍と茜と満たしあふ 季太鼓橋われらが占拠初写真 季万歳の遠ければ遠き世のごとく 季梅の精狂ふ舞初うつくしく 季古き宮の宝舟なり買ひにけり 季紅顔の人等つどへり実朝忌 季ほんだはら黒髪のごと飾り終る 季コスモスの君と言はれし人思ふ 季巫女下るお山は霞濃くなりて 季●万両のひそかに赤し大原陵 季さざなみの絹吹くごとく夏来る 季雨どどと白し菖蒲の花びらに 季鼻汁溝泥のごとくかなしや夏の風邪 季敗れたりきのふ残せしビール飲む 季菊咲けり陶淵明の菊咲けり 季やがて帰る燕に妻のやさしさよ 季旅人の雁をかぞへて日をかぞふ 季山の日の中天に来し葡萄園 季山門の春の焚火のかぐはしく 季松島の松に雪ふり牡蠣育つ 季わが頬にふれてあたたか枯芒 季石焼藷銀の匙もてすくへるよ 季啓蟄の蚯蚓の紅のすきとほる 季一片の落花の影も濃き日かな 季願ぎごとのあれもこれもと日は永し 季雨蛙ねむるもつとも小さき相 季氷店秩父の石を飾り立て 季紅葉焚くことも心に本を読む 季藁の栓してみちのくの濁酒 季雪ふれば女子大もつくる雪達磨 季虹のごとくつらなることも熱帯魚 季帆立貝すなどる舟の帆を立てて 季啓蟄の虫より早く起き出でて 季みちのくの淋代の浜若布寄す 季地球儀と南瓜と柿本人麿と 季えごの花遠くへ流れ来てをりぬ 季玉虫の羽のみどりは推古より 季書屋古りうどんげも花ざかりにて 季老の身をサルビヤの火の中におく 季仲秋を花園のものみな高し 季御嶽の雪バラ色に鳥屋夜明 季秋茗荷ざくざく刻むいさぎよし 季藤袴とてそだて来し蕾もつ 季中庭に雨を集めて秋海棠 季南部富士けふ厳かに頬冠り 季連翹の枝の白さよ嫋さよ 季アカシヤの花こぼしつつ時を告ぐ 季人親し林檎の花は枝低く 季
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