富安風生 ●
掌中の珠とまるめて蓬餅 季一弁のはらりと解けし辛夷かな 季落椿ふむ外はなき径かな 季雨ならず萍をさざめかすもの 季見つめをる月より何かこぼれけり 季流星の尾の長かりし湖の空 季落葉松は霧を淋しと立ち揃ふ 季雲海に紫にじむ秋意かな 季行く道のままに高きに登りけり 季小鳥来て午後の紅茶のほしきころ 季よろこべばしきりに落つる木の実かな 季狐火を信じ男を信ぜざる 季寒紅の濃き唇を開かざり 季切干のむしろを展べて雲遠し 季カタコトとスチームが来る室の花 季初日記書きたきことは他にありて 季怠れど針は器用や縫始 季うそまこと七十余年初寝覚 季夏空へ雲のらくがき奔放に 季初松風心の襞にかそかなり 季まさをなる空よりしだれざくらかな 季淋しきがゆゑにまた色草といふ 季何もかも知つてをるなり竈猫 季寒雀顏見知るまで親しみぬ 季わが生きる心音トトと夜半の冬 季三月の声のかかりし明るさよ 季冬の蝶人に見られてあがりけり 季ジャケツ真赤く縄飛はまだ出来ず 季談笑のいと朗かに梅雨の宿 季塩噴きしひね梅干を珍重す 季里の子等庭に見てゐる麦酒酌む 季夕空のなごみわたれる案山子かな 季白桃をよよとすすれば山青き 季露の宿掃き出す塵もなかりけり 季秋涼し湖の渚に瓜二葉 季老木の芽をいそげるをあはれみぬ 季青麦にオイルスタンド霾る中 季掌にのせて子猫の品定め 季再びの春雷をきく湖舟かな 季九十五齢とは後生極楽春の風 季捕虫網ふる子に馴れて牧の馬 季石鎚も南瓜の花も大いなり 季削氷を掌もて押ふること親し 季みなし栗ふめばこゝろに古俳諧 季花蓼にたわわなるかな青蜜柑 季スキー穿きこの子可愛や家はどこ 季しづかにもひれふる恋や熱帯魚 季秋晴の運動会をしてゐるよ 季二歩ふめば二歩近づきぬ春の富士 季一片の蓼の葉あをし鱚にそへ 季大敷をしづめてあをし夏の潮 季紫蘇の実の草にまぎるゝ狭庭かな 季柊の花と思へど夕まぐれ 季侘助の咲きかはりたる別の花 季しづかなる夫婦暮しの笑初 季凍解や子の手をひいて父やさし 季そのかみの絵踏の寺の太柱 季街の雨鶯餅がもう出たか 季浪花踊見つつはあれど旅疲れ 季この道をふみまどはず鳴雪忌 季柳鮠さばしる水をかちわたる 季夜桜や遠ざかり来てかへりみる 季退屈なガソリンガール柳の芽 季浪が消す砂の歌文字防風摘 季代掻けばおどけよろこび源五郎 季箱釣や棚の上なる招き猫 季喜雨のあとふたたび白し夜の雲 季
俳句歳時記(新年)新装第2版 [ 富安風生 ]2420円(税込/送料込)カード利用可・海外配送不可・翌日配送不可【楽天ブックスならいつでも送料無料】 【楽天ブックス】