三夏の季語 蛸
頭に見える部位が胴で、足は頭から生えているような形になるので、頭足綱に分類されている。軟体動物で骨はなく、吸盤のついた八本の足が特徴。オスは、そのうちの一本の先端が生殖器になっている。
大きく分けてヒゲダコ亜目とマダコ亜目があり、食卓に馴染みのマダコ・ミズダコ・イイダコは、マダコ亜目マダコ科に属する。
世界には、戒律から蛸を食せない宗教もあるが、日本では古くから食されている。特にマダコは身が締まり、濃厚な旨みがあって高級とされ、「蛸」といえば通常はこのマダコを指す。
マダコは、三陸から九州にかけての太平洋沿岸や瀬戸内海で捕獲され、水深40mまでの比較的浅いところに生息している。明石などの瀬戸内ものの旬は、産卵期の6~7月のもので、これを「麦わらだこ」と呼んでいる。
蛸漁のはじまりは、弥生時代にあると考えられている。縄文型内湾漁労が衰退してから、内湾漁労として蛸壺漁が始まったと考えられており、明石はその発祥地とされている。ただ、蛸壺漁は非効率であるため、現在ではほとんど行われていない。
蛸は年中捕獲されるものではあるが、関西では半夏生に蛸を食べる習慣があり、夏の季語となっている。ただし、季語になったのは近年のことであり、松尾芭蕉に「たこ壺やはかなき夢を夏の月」の句もあるが、「蛸」のみを季語として詠み込んだ俳句は少ない。
「蛸は身を食う」という慣用句があるが、蛸は空腹になると自分の足を食うと言われることから、財産を食いつぶすことを指す。また「蛸足配線」などもよく使われる言葉である。
「たこ」の語源はその手足に特徴を見て、「手(た)」に接尾語の「こ」をつけたものだという説がある。
【蛸の俳句】
章魚沈むそのとき海の色をして 上村占魚
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