遅日(ちじつ・おそきひ・おそひ)

三春の季語 遅日

暮遅し(くれおそし)暮かぬる(くれかぬる)夕永し(ゆうながし)

季語 俳句春は、日脚がのびて、暮れの遅さを実感するようになる。その春の一日のことを遅日と言い、なかなか沈まない太陽のこともまた遅日という。

遅き日のつもりて遠きむかし哉  与謝蕪村
黒板の遅日の文字の消し残し  中村汀女

インターネット歳時記

下萌(したもえ)

初春の季語 下萌

草萌(くさもえ)草青む(くさあおむ)

季語 下萌早春、まだ枯草の残る土壌から、草の芽が伸びてくること。
新古今和歌集に、源国信の和歌で

春日野の下萌わたる草の上に つれなく見ゆる春の淡雪

がある。また「萌」は、万葉集の志貴皇子の和歌の中にも既に登場している。

石ばしる垂水の上の早蕨の 萌え出づる春になりにけるかも

近年では「萌」の文字に、疑似恋愛感情を読み取ることがある。本来は、下から上に向かう勢いを表現する、「燃える」に通じる言葉である。

まん丸に草青みけり堂の前  小林一茶
下萌に明さあるごと昼の月  原石鼎

インターネット歳時記

余寒(よかん)

初春の季語 余寒

残る寒さ(のこるさむさ)

季語 俳句立春後になお残る寒さ。残寒とも。
喪中などの理由で、年賀状を出せなかった場合、「寒中見舞い」や「余寒見舞い」で対応する。「余寒見舞い」を出す期間は、立春後、2月末まで。
古今和歌集・摂政太政大臣(藤原良経)の和歌に「家百首歌合に余寒の心を」として、

空はなほ霞みもやらず風さえて 雪げに曇る春の夜の月

がある。「なほ~さえて」で余寒を表す。

残り少なに余寒もものゝなつかしき  正岡子規
水に落し椿の氷る余寒かな  高井几董

インターネット歳時記

寄居虫(やどかり・ごうな)

三春の季語 寄居虫

季語 寄居虫 俳句エビやカニと同じ十脚目に属する。深海から、陸上に生息するするものもあるが、日本では、海岸で見られるホンヤドカリ・イソヨコバサミなどが一般的。
体のサイズに合った貝殻を探し当て、それを背負って生活する。成長するとともに、貝殻を変えていく。普通、引っ越しの時以外は、貝殻から離れることはない。
貝殻は、天敵から身を守るためのものであり、天敵を見つけると殻の中に逃げ込み、ハサミで殻の口に蓋をする。また、貝殻の内部は、削ったり浸食物質を分泌したりして、滑らかで広い空間に保たれている。
寄居虫の特徴として、体長の半分の長さにもなるペニスがある。ペニスが大きいほど、交尾の時に貝殻から離れなくてすみ、家を横取りされて天敵に襲われる危険性が低くなる。
文献上、平安時代以前から食用にされていたことが知られている。焼いたり刺身にしたり、塩辛にして食すが、現代では一般的ではない。

古くは「がうな」とされ、枕草子に、類焼にあった下男が「侍る所の焼けはべりにければ、がうなのやうに、人の家に尻をさし入れてのみさぶらふ」と、陳情にやってくる姿が描かれている。

おのが影引きずりて行く寄居虫かな  喜多和子

インターネット歳時記

霞(かすみ)

三春の季語 

朝霞(あさがすみ)夕霞(ゆうがすみ)

季語 霞春になると、水蒸気などで遠くの景色が不明瞭になることが多い。「霞」は、気象観測において定義されていないために、気象用語ではない。夜の霞は「朧」という。
むかし霞と霧とに大きな区分はなかったが、古今集以降、春は「霞」、秋は「霧」と区別されるようになった。なお、「和名抄」に「霞は赤い雲気」とあり、夏の季語となる「朝焼け」「夕焼け」のことも、古くは中国に倣って「霞」の文字を用いた。「朝霞」「晩霞」の言葉もあるが、俳句では焼けの現象は指さない。
万葉集には、柿本人麻呂の歌で

ひさかたの天の香具山このゆふべ 霞たなびく春立つらしも

がある。

悩んだり、わだかまりがある状況を「霞」と表現することもある。浮世離れして清貧を貫くことを「霞を食う」と言ったり、一目散に走って姿を隠すことを「雲を霞」と言ったりもする。

春なれや名もなき山の朝がすみ  松尾芭蕉

インターネット歳時記

薄氷(うすらひ・うすらい・うすごおり・はくひょう)

初春の季語 薄氷

春の氷(はるのこおり)春氷(はるごおり)

季語 薄氷早春の朝に薄く張った氷や、早春まで融け残った薄い氷。古くは、氷ができることを「こほる」、その氷自体を「ひ」と呼んだ。万葉集には大原櫻井真人の和歌で

佐保川に凍りわたれる薄ら氷の 薄き心を我が思はなくに

がある。
俳諧歳時記栞草で「薄氷(うすらひ)」は「兼三冬物」に分類され、「詩云、戦々兢々如履薄氷」とある。

僅差で勝つことを「薄氷の勝利」、危険な状況に臨むことを「薄氷を踏む」という。また、有名な和菓子に、富山の「薄氷」がある。

うすらひやわづかに咲ける芹の花  宝井其角
空を出て死にたる鳥や薄氷  永田耕衣

インターネット歳時記

暖か(あたたか)

三春の季語 暖か

ぬくし

季語 暖か春は「暖か」、夏は「暑し」、秋は「冷やか」、冬は「寒し」。暑くも寒くもなく、ほどよい感じは、心に余裕を生む。金銭的に余裕があることも、「懐が暖かい」などと表現する。
万葉集に沙弥満誓の和歌で

しらぬひ筑紫の綿は身につけて いまだは著ねど暖かに見ゆ

とあるように、「暖か」は色にも現れる。

あたたかな雨が降るなり枯葎  正岡子規

インターネット歳時記

春眠(しゅんみん)

三春の季語 春眠

春の眠り(はるのねむり)春眠し(はるねむし)春睡(しゅんすい)

季語 春眠春の夜の眠りは心地よい。ついつい貪ってしまうもの。
唐の詩人・孟浩然の「春曉」は、あまりに有名。

春眠不覺曉
處處聞啼鳥
夜來風雨聲
花落知多少

「春眠暁を覚えず」である。清少納言は対抗するかのように、「春はあけぼの」と語り始めるが…

春眠のこの家つつみし驟雨かな  星野立子

インターネット歳時記

猫柳(ねこやなぎ)

初春の季語 猫柳

季語 猫柳ヤナギ科ヤナギ属の落葉低木。早春に、葉が出る前に花穂が出る。
穂が猫の尻尾に似ているところから、「猫柳」の名がついた。小犬の尾にたとえて、「狗尾柳(えのころやなぎ)」とも言う。また、水辺を好むことから「川柳」の名もある。
万葉集では川楊(かわやぎ)と呼ばれ、3首に詠まれる。詠み人知らずの和歌に

山の際に雪は降りつつしかすがに この川楊は萌えにけるかも

がある。

猫柳高嶺は雪をあらたにす  山口誓子

インターネット歳時記

鞦韆(ぶらんこ・ふらここ・しゅうせん・ゆさわり)

三春の季語 鞦韆

ふらここぶらんこ

季語 鞦韆「鞦韆」と言えば、現在では、座板をぶら下げた揺動系遊具であるが、古くは中国の宮女が使った性的な遊び道具であったとも言われる。唐代には、冬至から105日後に、女性が鞦韆を用いる宮中儀礼があり、玄宗皇帝はそれを仙人となり天に登ることに見立てて、「半仙戯」の名をつけた。
日本では、嵯峨天皇の漢詩に「鞦韆篇」があり、ここにも春に鞦韆を楽しむ女性の姿が歌われている。

「ぶらんこ」の語源には諸説あるが、揺れる様を表す擬態語の「ぶらん」に接尾語「こ」をつけたという説や、ポルトガル語でバランスを意味する「balanço」からきたという説などが有力。「balanço」は、ポルトガルで鞦韆の意味でも使われており「バランソ」と発音する。

北宋の蘇東坡「春夜」は、鞦韆を取り上げたものとして、最も有名。

春宵一刻値千金
花有清香月有陰
歌管楼台声細細
鞦韆院落夜沈沈

「一刻千金」のもとになった漢詩である。

鞦韆は漕ぐべし愛は奪ふべし  三橋鷹女
鞦韆に腰かけて読む手紙かな  星野立子

インターネット歳時記