黴(かび)

仲夏の季語 

季語菌糸からなる糸状菌(しじょうきん)。子実体をつくるものをキノコと言うが、コロニーを形成して目に見える形となったものをカビという。
顕微鏡で見ると、菌糸と呼ばれる糸状の細胞が観察できる。その菌糸は、胞子が発芽することによって形成される。有機物から栄養分を得ながら伸張し、単性生殖と有性生殖の両方を行うことが知られている。

数万にのぼる種類のカビが知られており、食品を腐らせたり、アレルギーなどの病気を誘発する悪い生物として認識されている。クロカビやアオカビが、生活する中で馴染み深いものであり、中には水虫の元になる白癬菌などもある。
しかし、コウジカビなど、食品の製造に欠かせない種類のカビや、ペニシリンなどの抗生物質を生み出す有益な種類のカビもある。日本では古くから、カビを利用した食品の製造が行われており、酒・醤油・漬物・納豆・鰹節などがそれにあたる。海外でも、チーズの製造などにカビを活用している。

語源は「醸す」にあると言われ、「醸ぶ(かぶ)」の転訛とされる。
慣用句に、時代遅れを表す「黴が生える」がある。

黴の中言葉となればもう古し  加藤楸邨

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半夏生(はんげしょう)

仲夏の季語 半夏生

半夏(はんげ)

季語七十二候の1つ「半夏生(はんげしょうず)」から作られた雑節。かつては夏至から数えて11日目。現在では、天球上の黄経100度の点を太陽が通過する日で、7月2日頃。
田植えを終える目安となった日で、天から毒気が降ると言われ、農事を休む。この頃に降る「半夏雨」は、大雨になることが多い。

半夏生とは、半夏という薬草が生える頃という意味。半夏とは、カラスビシャクとも呼ばれ、サトイモ科の植物。半夏厚朴湯などの漢方薬となり、神経を安定させる効果や痰きりの効果がある。

汲まぬ井を娘のぞくな半夏生  池西言水

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梅雨(つゆ・ばいう)

仲夏の季語 梅雨

黴雨(ばいう)梅の雨(うめのあめ)

季語東アジアの雨季。この時期の雨を、旧暦5月の雨という意味で「五月雨」という。梅雨前線が北上し、日本列島を抜けるまでの約1カ月間、雨が多い天気となる。
気象庁が梅雨入りと梅雨明けを発表するが、特定されない年もある。関東での梅雨入りは6月10日頃、梅雨明けは7月20日頃である。
梅雨入り前に、梅雨と同じような雨が降り、「梅雨の走り」などと呼ぶことがある。また、梅雨の期間に比較的長く雨が降らないことがあり、これを「梅雨の中休み」と呼ぶ。梅雨の晴れ間は「梅雨晴れ」という。
年によって雨の降り方に違いがあり、豪雨を伴う「男梅雨」、しとしとと長雨になる「女梅雨」がある。また、雨が降らない「空梅雨」となることも。
梅雨の始まりを「梅雨入り」「入梅」と呼び、現代感覚では春の終わりと捉えるが、立夏が過ぎて1カ月以上を要しての梅雨入りとなることから、暦の上では仲夏にあたる。夏とはいえ「梅雨寒」「梅雨冷」となり、寒さを感じることも多い。

「梅雨」は中国で生まれた言葉で、梅の実が熟す時期の雨という意。しかし、黴が生えやすいから「ばいう」と呼び、同じ発音の「梅」の字を当てて「梅雨」になったという説もある。
日本に「梅雨(ばいう)」の言葉が伝わったのは平安時代だったと考えられており、万葉の時代には「卯の花くたし」と呼んでいたとも言われている。1687年の「日本歳時記」には「此の月淫雨ふるこれをつゆと名づく」とあり、この頃から、「露」から来たと考えられる「つゆ」の呼称が定着したと見られている。

目をつむり梅雨降る音のはなれざる  長谷川素逝
一角の明けてありけり梅雨の空  村沢夏風

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五月雨(さみだれ・さつきあめ)

仲夏の季語 五月雨

さみだる

季語旧暦5月頃に降る雨のこと。梅雨とは、五月雨が降る時期のこと。耕作に関与する接頭語「さ」に、「水垂れ」がくっついて「さみだれ」となった。
万葉集に「五月雨」は掲載されず、古今集あたりから出てくるが、和歌における地位を確立したのは西行か。多くの歌が残されており、

橘のにほふ梢にさみだれて 山ほととぎす聲かをるなり

などは、以降の和歌でもしばしば見られるように、「さ乱る」に掛けて用いられている。

「五月雨式」という言葉があるが、継続してものごとを行うのではなく、断続してものごとを進めるやり方である。

五月雨を集めてはやし最上川  松尾芭蕉
五月雨や大河を前に家二軒  与謝蕪村

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梔子の花(くちなしのはな)

仲夏の季語 梔子の花

季語アカネ科クチナシ属の常緑低木。いくつかの種類があり、八重の花を咲かせるヤエクチナシもある。6月から7月頃に白い花をつけて、よく匂う。日本を含む東アジアが原産地で、静岡以西に自生するが、現在では園芸用に栽培されることが多い。

「巵」は、古代中国の盃。梔子の実が、その盃の形に似ていることから「梔子」の字を当てたとされる。
秋に実が熟しても、割れないために「口無し」という名がついたと言われる。そのことを題材にしたものとして、古今和歌集に載る素性法師の

山吹の花色衣主や誰 問へど答へずくちなしにして

がある。
この和歌に詠み込まれたように、果実は山吹色の着色料として用いられる。この色を「梔子色」「謂はぬ色」と呼んだ。果実は、漢方薬にもなる。
春の沈丁花、秋の金木犀と並ぶ三大香木に数え上げられる。その香はジャスミンにも似ることから、イギリスでは「ケープジャスミン」と呼ばれる。

1973年から1974年にかけて、渡哲也の歌う「くちなしの花」が大ヒットした。この曲のヒットとそのネーミングから、日本では寂しげなイメージで語られがちな花であるが、花言葉は「喜びを運ぶ」「優雅」「洗練」。欧米では、プロポーズに女性に捧げる花ともなる。

くちなしの淋しう咲けり水の上  松岡青蘿

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栗の花(くりのはな)

仲夏の季語 栗の花

栗咲く(くりさく)

季語ブナ科クリ属の栗。雌雄異花で、5月から6月に、雄花は穂状、雌花は毬状の白い花をつける。花は地味であるが、雄花は独特の臭いが印象的で、男女の交わりに掛けて句作されたりする。
このブナ科特有の臭いは、スペルミンという人間の精液にも含まれる物質に起因する。

世の人の見付ぬ花や軒の栗  松尾芭蕉
栗咲く香死ぬまで通すひとり身か  菖蒲あや

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百合(ゆり)

仲夏の季語 百合

鬼百合(おにゆり)・山百合(やまゆり)・笹百合(ささゆり)・姫百合(ひめゆり)・鉄砲百合(てっぽうゆり)・車百合(くるまゆり)

季語ユリ目ユリ科ユリ属の多年草。日本ではヤマユリ・ササユリ・テッポウユリなど、7種ほど特産種がある。園芸種も含め、5月から8月頃に開花し、球根は食用や薬用として活用される。
キリスト教の復活祭には、「イースターリリー」が登場する。かつては、マリアの純潔の象徴として、純白のマドンナリリーが使用されていたが、シーボルトが日本から持ち帰ったテッポウユリがそれに代わったという。

花が風に揺られる様から、「揺り」を語源とする説がある。英語での「Lily(リリー)」は、ラテン語の「līlium(リーリウム)」から来ているとされ、「ユリ」に近い発音を持つことは興味深い。
「ユリ」の名は、古くは高麗百済から伝わったと言われているが、既に古事記(神武天皇記)には、「山百合草(山由理草)」の名がある。その条によると、山百合草の元の名は「佐韋(さゐ)」であったとされる。
一説には、神武天皇の皇后であるイスケヨリヒメの家が佐韋河の上にあったことから、イスケヨリヒメの名から「ヨリ」と呼ばれていたものが、転訛して「ユリ」の名になったとも。
日本書紀(皇極天皇紀)には、「其の茎の長さ八尺。其の本異にして末連へり」とある。一般に、この球根の形から「百合」の文字が当てられたとされる。

万葉集には「百合」として10首ほどの中に現われ、接頭語をつけて「さゆり」となるものもある。紀朝臣豊河の

我妹子が家の垣内のさ百合花 ゆりと言へるはいなと言ふに似る

のように、「後ほど」という意味の「ゆり」とともに用いられることが多い。

「立てば芍薬、坐れば牡丹、歩く姿は百合の花」と言って、美女を形容する言葉にも使用される。
新約聖書には「ソロモンの栄華もユリに如かず」とあるが、人間の作り上げたものは神の創造物には及ばないことの比喩である。
また「百合」は、女性の同性愛を指す言葉としても知られている。

花をやれとかく浮世は車百合  西山宗因

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紅粉の花(べにのはな)

仲夏の季語 紅粉の花

紅花(べにばな)

季語エジプト原産、キク科ベニバナ属の一年草。末摘花(すえつむはな)とも呼ぶ。日本には3世紀に呉から渡来してきたと考えられており、「呉藍(くれのあい)」「久礼奈為(くれない)」などと呼んだ。
染めた衣類は色落ちしやすいことから、紅花は「うつろう」「はかない」に結びつく。大伴家持が、その移ろい易さを橡と比較した和歌が、万葉集に載る。

紅はうつろふものぞ橡の なれにし来ぬになほしかめやも

紅花からとれる紅は、「紅一匁金一匁」と言われるほどに高価で、江戸時代の産地だった最上川流域を潤した。今では中国産に押され生産量は減ったものの、紅花は山形県の県花に指定されている。山形県では、紅花が咲く7月上旬に、「べにばな祭」が開催される。

紅花は、染料以外にも用途が広い。乾燥させた花は紅花(こうか)と呼ぶ、血行促進作用がある生薬にする。小町紅と呼ぶ口紅も製造された。紅花の種子を搾れば、紅花油にもなる。

まゆはきを俤にして紅粉の花  松尾芭蕉

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菖蒲(あやめ・しょうぶ)

仲夏の季語 菖蒲

花菖蒲(はなしょうぶ・はなあやめ)あやめ草(あやめぐさ)燕子花(かきつばた)

季語日本人が最も混同している植物が、アヤメとショウブ。どちらも漢字で「菖蒲」と書く。
しかし、両者は全く別の植物で、アヤメはユリ目アヤメ科、ショウブはオモダカ目サトイモ科となる。葉の形状が似ているための混同だが、花は全くの別物。アヤメが紫や白などの大きな花弁をつけるのに対し、ショウブの花は蒲の穂のようで地味。

アヤメの名は、花弁基部の文目模様からきた名称とも言われており、本来は「文目」と表記すべきか。中国から「端午の節句」を取り入れた時に、自生していたアヤメと、行事で使用されるショウブとの混同が起こったと見られ、以降、ショウブのことを「あやめ草」と呼ぶようにもなったという。

さらに話をややこしくしているのが、中世から園芸栽培が盛んになったハナショウブの存在。ショウブと名はつくが、アヤメ科に属し、アヤメと違わぬ美しい花をつける。
因みに、アヤメ科の植物であるアヤメ・ハナショウブ・カキツバタは見分けがつきにくいが、それぞれ花弁の基部に特徴が現われる。アヤメは文目模様、ハナショウブは黄色、カキツバタは白色の斑紋が入る。また、アヤメは乾いた土地を好むのに対し、ハナショウブ、カキツバタは湿地を好む。

俳諧歳時記栞草には、「花菖蒲」と書いて「はなしょうぶ」、「紫羅襴花」と書いて「はなあやめ」、「杜若」と書いて「かきつばた」と読ませる。菖蒲に関しては、菖蒲酒など「あやめ」と読ませるものが12項、「しょうぶ」と読ませるものが「花菖蒲」「菖蒲刀」2項である。

万葉集には「あやめぐさ」を取り上げたものが10首あまり有り、田辺福麻呂の

霍公鳥いとふ時なしあやめぐさ かづらにせむ日こゆ鳴き渡れ

のように、ホトトギスとともに歌われたものが半数を占める。当時は、5月5日にショウブを束ねて頭に巻いていたと見える。

ショウブは、本来「白菖」の字があてられる。古代中国では、邪気の満ちると言われた5月に、葉の形が刀に似て、邪気を払うと考えられた芳香がある菖蒲を用い、「女性の節句」と言われた「菖蒲の節句」を祝った。それが日本に伝わる中で「尚武」に通じ、「男の子の節句」に変わったという。

あやめ草足に結ん草鞋の緒  松尾芭蕉

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苔の花(こけのはな)

仲夏の季語 苔の花

季語維管束のない植物・蘚苔類のことを一般にコケと呼ぶが、鑑賞用に用いられるのは苔類。コケにもいろいろな種類があり、苔寺などでよく見られるのは、スギゴケ、ヒノキゴケ、シラガゴケ。
コケは、はじめて地上に上陸した植物。約5億年前に上陸したコケは、空中の酸素量の増加に寄与した。
コケは、薄暗い湿気の多い環境を好むと考えられているが、苔類は乾燥にも意外と強い。また、光合成を行うため、光を必要とする存在でもある。
「苔の花」と呼ばれるものは、苔類の胞子嚢である蒴のこと。春か秋に蒴が見られる種類が多い。このところの苔ブームで、特に人気が高いのは「タマゴケ」の蒴で、その目玉おやじのような姿は、「たまちゃん」の名で親しまれている。

日本において苔は、古くから悠久の時を刻むものとして親しまれており、万葉の時代から「苔生す」の表現がよく使われている。特に有名なのは、「君が代」のもととなった古今和歌集の詠み人知らずの歌

我君は千世に八千世にさゝれ石の 巌となりて苔のむすまで

であろう。

苔咲くや親にわかれて二十年  村上鬼城

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