季語|都忘れ(みやこわすれ)

晩春の季語 都忘れ

都忘れ「都忘れ」とは、キク科シオン属ミヤマヨメナの園芸品種で、4月から6月頃に紫・桃・白などの花を咲かせる。野生種のミヤマヨメナ(深山嫁菜:別名に野春菊)は本州から九州に自生し、栽培され始めたのは江戸時代からだと考えられている。
「都忘れ」は不稔性で、株分けによって増殖させる。
「都忘れ」の名は、承久の乱の後に佐渡に流された順徳天皇が、この花を愛でながら都を忘れようとしたところから来ている。その順徳天皇の和歌に、

いかにして契りおきけん白菊を 都忘れと名付くるも憂し

がある。乱の中心人物であり、父である後鳥羽上皇が好んだ白菊への、複雑な感情が表れている。

【都忘れの俳句】

雑草園都忘れは淡き色  高浜年尾

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季語|勿忘草(わすれなぐさ)

晩春の季語 勿忘草

勿忘草勿忘草は、ムラサキ科ワスレナグサ属の植物の総称で、中でもシンワスレナグサのことを指すことが多い。ただし、園芸種でワスレナグサとして流通しているのは、ノハラワスレナグサの場合が多い。
ヨーロッパ原産で、日本には先ず、ノハラワスレナグサが明治時代に入ってきた。現在では野生化し、全国の湿地帯に広がって、4月から6月頃にさそり型花序の花をつける。

「勿忘草」の名は、中世ドイツの伝説から来ている。それによると、騎士ルドルフは恋人のためにドナウ川に咲くこの花を摘もうとしたが、川に飲み込まれた。流されながらも花を岸に投げ、「忘れないでくれ」と言って亡くなった。恋人は、墓にその花を捧げ、「Vergissmeinnicht(勿忘草)」の名をつけたという。欧米では友愛や誠実の象徴となっており、花言葉は「真実の愛」「私を忘れないで下さい」である。

【勿忘草の俳句】

シヤンソンを聴く薄明の勿忘草  きくちつねこ

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季語|金鳳華(きんぽうげ)

晩春の季語 金鳳華

金鳳花(きんぽうげ)

金鳳華金鳳華は、キンポウゲ科キンポウゲ属の花のことである。国内で一般的なのは同属のウマノアシガタであるが、ウマノアシガタの八重咲種には「キンポウゲ」の標準和名が与えられている。
ウマノアシガタは、全国の日当たりのよい山野に自生し、4月から6月頃に咲く。毒草である。

花を金色の鳳凰に見立てて名付けられたものであるが、「金鳳花」は、中国では鳳仙花の別名として通っている。
俳諧歳時記栞草(1851年)では春之部三月に「金鳳花」として立項し、「毛茛(もうこん)」「鬼の田芥子(おにのたがらし)」の別名を載せている。「毛茛」の「茛」は鳥兜の苗のことであり、鳥兜と同じく毒を持つことを言い表したものである。

【金鳳華の俳句】

あるけばきんぽうげすわればきんぽうげ  種田山頭火

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季語|苧環の花(おだまきのはな)

晩春の季語 苧環の花

糸繰草(いとくりそう)

苧環の花苧環は、キンポウゲ科オダマキ属の植物のことであり、日本原産のミヤマオダマキと、ヨーロッパ原産の西洋オダマキに大別され、約70種がある。日本に自生するのはミヤマオダマキとヤマオダマキで、山野草として愛好されている。ミヤマオダマキを園芸用に改良した基準変種に「オダマキ」がある。4月から6月頃に花をつける。

花の形が麻糸(苧)を巻く「苧玉」に似ているところから「苧環」の名がついた。糸繰草とも呼ぶ。静御前が歌った「しづやしづ賤のおだまきくりかえし むかしをいまに なすよしもがな」の「おだまき」は、糸玉から糸を繰り出すことを歌ったものである。

【苧環の花の俳句】

をだまきの花もしじまのひとつにて  加藤楸邨

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季語|リラの花(りらのはな)

晩春の季語 リラの花

ライラック(らいらっく)

リラの花「リラの花」とは、モクセイ科ハシドイ属ライラックの花のことである。「リラ」はフランス名で、和名は紫丁香花(むらさきはしどい)である。ヨーロッパ原産で、日本には明治時代中頃に渡来し、北海道中心に植樹された。4月から5月頃に香りのよい紫や白い花を咲かせる。
札幌では市の木に指定され、5月に開催される「さっぽろライラックまつり」は多くの人を集める。また、北海道ではライラックが咲くころの冷え込みを「リラ冷え」と呼ぶ。これは、札幌の俳人・榛谷美枝子氏による造語で、「リラ冷えや睡眠剤はまだきいて」などと詠まれた。後に渡辺淳一の小説「リラ冷えの街」(1980年)により定着した言葉である。

【リラの花の俳句】

私にも二つの名前ライラック  櫂未知子

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季語|二人静(ふたりしずか)

晩春の季語 二人静

早乙女花(さおとめばな)

二人静センリョウ科チャラン属フタリシズカは、丘陵地の林内などに自生する多年草で、4月から6月頃に花が咲く。穂状花序が、通常は2本つく。この花序を、能楽「二人静」の静御前と菜摘女に見立てて名がついたとされる。同属に、花序を一つだけ持つ「一人静」がある。

【二人静の俳句】

幽かなる穂花は二人静なる  加藤三七子

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季語|枸橘の花(からたちのはな)

晩春の季語 枸橘の花

花枳殻(はなからたち)

枸橘の花ミカン科カラタチ属カラタチは、長江上流域を原産地とする落葉低木で、生薬などにされる実は「枳殻の実」として秋の季語になる。刺があるため、生垣などによく利用され、花は4月から5月頃に咲く。
日本には奈良時代以前に中国から渡来したと考えられており、「からたち」の名は「唐橘(からたちばな)」が語源になっていると考えられている。中国では枸橘(くきつ)と表現される。「枳殻」と書いて「からたち」とも読むが、通常は「きこく」と読んで生薬名となる。
万葉集には1首、「枳(からたち)」の字を用いて歌われている忌部首の和歌がある。

枳と茨刈り除け倉建てむ 屎遠くまれ櫛造る刀自

北原白秋作詞、山田耕作作曲の童謡に「からたちの花」があり、「からたちの花が咲いたよ 白い白い花が咲いたよ…」と歌われる。

【枸橘の花の俳句】

からたちの花の昔の昔かな  岸田稚魚

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季語|豌豆の花(えんどうのはな)

晩春の季語 豌豆の花

豌豆の花中央アジア原産で世界最古の農作物ともいわれるマメ科エンドウ属エンドウは、エンドウマメとかグリーンピースなどとも呼ばれる「豌豆」が夏の季語になる植物で、4月から5月頃に花が咲く。硬莢種のアオエンドウ・アカエンドウ、軟莢種のサヤエンドウなどの栽培種、現在では雑草の扱いとなっているカラスノエンドウなどがある。春の季語に「花豌豆」があるが、これはマメ科レンリソウ属のスイートピーのことである。
原産地の大宛国(フェルガナ)から漢に伝来した際、その国名を漢字に組み入れて「豌豆」としたとの語源説がある。日本には遣唐使により持ち込まれたと考えられているが、さやのまま食せる軟莢種は、江戸時代にヨーロッパからもたらされたとされている。

【豌豆の花の俳句】

豌豆の花に瀬音のひゞく朝  中坪潦月

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季語|通草の花(あけびのはな)

晩春の季語 通草の花

通草の花アケビ科アケビ属アケビは山野に自生し、実は「通草」として秋の季語となる。通草の花は雌雄同株・雌雄異花で、4月から5月頃に見られる。大きな雌花と小さな雄花が垂れ下がって咲く。
同属に花の色が濃い「ミツバアケビ」があり、こちらも「通草の花」として俳句に詠まれる。

「あけび」は「朱実」が語源との説があるが、現在では、秋に実が割れる様を「開け実」と言ったことによるとの説が定着している。割れた実の形を、人があくびをしている様に見立てたという説もある。
あけびは、「通草」の他、「木通」「山女」「丁翁」とも表記する。
万葉集では「さのかた」として歌われているという説があり、作者不詳で

さのかたは実にならずとも花のみに 咲きて見えこそ恋のなぐさみに
さのかたは実になりにしを今さらに 春雨降りて花咲かめやも

の2首がある。

【通草の花の俳句】

海鳴れり通草も黒き花を垂れ  相生垣瓜人

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季語|樺の花(かばのはな・かんばのはな)

晩春の季語 樺の花

花樺(はなかんば)白樺の花(しらかばのはな)

樺の花「樺の花」とは、白樺の花のこと。白樺とは、カバノキ科カバノキ属シラカンバのこと。明るい場所を好む樹木で、その名は、樹皮が白いことからきている。古くは「かには」と呼ばれた。主に、東日本の山地に自生する。
花期は4月から5月頃で、葉が出始めると同時に花がつく。雌雄同株で、雄花は黄褐色で尻尾のように垂れ下がる。雌花は緑色で、枝に直立する。風媒花で、雄花の花粉は花粉症の原因になっている。

【樺の花の俳句】

白樺の花を覚えて穂高去る  後藤比奈夫

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