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阿波野青畝 

牡丹百二百三百門一つ  (紅葉の賀)
山又山山桜又山桜  (甲子園)
さみだれのあまだればかり浮御堂  (萬両)
冬ざれや家根に煙出しのないがしろ 
秋雨や山あきらかに京の町 
生駒より峰山高し麦刈れば 
石に狂うて深き轍や末がるる 
汝の年酒一升一升又一升 
巣ごもりの母鳥ひもじからざるや 
桜貝二枚の羽を合せけり 
思川白きもの立て夏祓 
来しかたをかくもてらてらなめくぢら 
水澄みて金閣の金さしにけり 
赤い羽根つけらるる待つ息とめて 
磔像と数千万の霜柱 
猟の沼板の如くに轟けり 
このあたりにほふ艾や寒詣 
丹頂の相寄らずして凍てにけり 
鴛鴦に月のひかりのかぶさり来 
元日の田ごとの畦の静かな 
福笑大いなる手に抑へられ 
乱心のごとき真夏の蝶を見よ 
猿酒かかんばせを打つ滴あり 
探梅やみささぎどころたもとほり 
水ゆれて鳳凰堂へ蛇の首 
朝夕がどかとよろしき残暑かな 
伐口の大円盤や山笑ふ 
春一や列島藻塩まぶれとす 
鳥雲に入り畢んぬと倚る柱 
閑居とはへつつひ猫の居るばかり 
鰤起し杉山檜山色褪せぬ 
若水に奈良井の宿の杓卸す 
お火焚に逆立つ狐灯りけり 
猟犬を妬み番犬よく吠ゆる 
磨崖仏をば舐めまはる鹿の子かな 
敗戦といふ文字は古り鰻食ふ 
うたかたが粘る鰻の暑さかな 
花烏賊のいでゐる息の墨の泡 
葛城の山懐に寝釈迦かな 
ぺちやんこの財布で競馬賭けてゐし 
須磨の舟梅天に何漁るらむ 
茶屋の裏紺青にして夏の川 
眦を汗わたりゆく飴湯かな 
立待月咄すほどなくさしわたり 
古里にふたり揃ひて生身魂 
閑かさにひとりこぼれぬ黄楊の花 
わが旅路たばこの花に潮ぐもり 
ほころびの出来ゆく垣のむかごかな 
雪折の藪の離々たり不破の関 
神楽笛おこりし森のたたずまひ 
手すさびに尼のつくろふ垣根かな 
をととひや水の近江の畦塗れる 
百千鳥鳥居立たせる山路かな 
岸の人乗込み鮒と顔あはす 
山涼し都忘れと聞くからに 
尖る靴丸い靴など踏青す 

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