松本たかし ●
日を追うて歩む月あり冬の空 季流れつつ色を変へけり石鹸玉 季仕る手に笛もなし古雛 季大空に唸れる虻を探しけり 季卒然と風湧き出でし柳かな 季水浅し影もとどめず山葵生ふ 季吹き渡る葛の嵐の山幾重 季南縁の焦げんばかりの菊日和 季稀といふ山日和なり濃竜胆 季八方に山のしかかる枯野かな 季夢に舞ふ能美しや冬籠 季花深く煤の沈める牡丹かな 季避けがたき寒さに坐りつづけをり 季いと古りし毛布なれども手離さず 季喰積にさびしき夫婦箸とりぬ 季虚子庵に不参申して寝正月 季静かなる自在の揺れや十三夜 季流れゆく椿は曲り失せにけり 季白虹の現れ消えぬ春の昼 季長閑さや山焼く煙山を這ひ 季女夫仲いつしか淡し古茶入るる 季葉を巻いてトマト病みをり梅雨の庭 季虹の中人歩きくる青田かな 季雨音のかむさりにけり虫の宿 季室の花日ねもすペンの音のそば 季頭上過ぐ嘴脚紅き都鳥 季天竜へ崩れ落ちつつ眠る山 季強東風に群れ飛ぶ荒鵜室戸岬 季下萌ゆと思ひそめたる一日かな 季立仕事坐仕事や浜遅日 季薄目あけ人嫌ひなり炬燵猫 季日は遠く衰へゐるや軒簾 季滝の中つと流れ落つ紅葉あり 季スキーヤー伸びつ縮みつ雪卍 季とつぷりと後ろ暮れゐし焚火かな 季二三枚重ねてうすし桜貝 季昼顔やますぐな道のさびしさに 季山越えて伊豆へ来にけり花杏子 季父の世の如金屏と寒牡丹 季処女みな情濃かれと濃白酒 季チゝポゝと鼓打たうよ花月夜 季 (鷹)梅雨明けのためらひゐるや病また 季麦打の遠くの音のねむたけれ 季これよりの百日草の花一つ 季十棹とはあらぬ渡しや水の秋 季野路来れば三色菫作る家 季彳めば昴が高し花畑 季蝦夷の鮭奥の寒餅つづき着く 季枇杷咲いて長き留守なる館かな 季花散るや鼓あつかふ膝の上 季濃山吹墨をすりつゝ流し目に 季毎日の朝寝とがむる人もなし 季
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