大野林火 ●
かりがねの声の月下を重ならず 季さみだるる一燈長き坂を守り 季走馬燈しづかに待てばめぐりけり 季ねむりても旅の花火の胸にひらく 季仏法僧こだまかへして杉聳てり 季夜光虫岩を蝕むごとく燃ゆ 季栗の花咲きいづるより古びけり 季灯籠にしばらくのこる匂ひかな 季七夕の子の前髪を切りそろふ 季末枯の陽よりも濃くてマッチの火 季仏めく母におどろく寒燈下 季紙漉のこの婆死ねば一人減る 季年いよよ水のごとくに迎ふかな 季納めたる注連も雪被て道祖神 季蔦紅葉巌の結界とざしけり 季人絶えて長き橋長き夜を懸る 季本買へば表紙が匂ふ雪の暮 季雪の水車ごつとんことりもう止むか 季蟇歩くさみしきときはさみしと言へ 季青草に猫夕濤を見てくれば 季梅雨見つめをればうしろに妻の立つ 季医通ひの片ふところ手半夏雨 季いや白きは南風つよき帆ならぬ 季寒暮鵜の耐へとぶ一羽も叫ばずに 季白き巨船きたれり春も遠からず 季 (海門)●春の虹消ゆまでを子と並び立つ 季ふと鳴いて白昼やさし野の蛙 季鳥雲に歳月おもひわれ歩む 季先師の萩盛りの頃やわが死ぬ日 季萩明り師のふところにゐるごとく 季物置けばすぐ影添ひて冴返る 季春燈を見上ぐるたびに光り増す 季積丸太日をため滑ら春の暮 季幹も黄に剛く竹秋はじまれり 季子猫われにまかせ親猫涼風裡 季大霜や遠望は火もみすぼらしく 季春塵の衢落第を告げに行く 季どしや降りに落花ただよふ仏生会 季老いらくのはるばる流し雛に逢ふ 季大根の花の雪白子は育つ 季夜網船女さみしく坐りけり 季夜釣人出払ひし宿灯はそのまま 季松葉牡丹日ざしそこより緑に来ず 季稿起す一夜サボテンの赤き花 季日は宙にしづかなものに茗荷の子 季忘られしもの昼の月蘆青し 季草木瓜や放牛の歩み十歩ほど 季椋鳥渡る山に焚火を消しをれば 季時雨馳せうこんの花のさかりなる 季冬暖と海辺の友に書きおくる 季海髪を干し岸を貧しくして去れり 季
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