飯田蛇笏 ●
極月や雪山星をいただきて 季くろがねの秋の風鈴鳴りにけり 季 (霊芝)●秋冷のまなじりにあるみだれ髪 季誰彼もあらず一天自尊の秋 季 (椿花集)春めきてものの果なる空の色 季芋の露連山影を正しうす 季 (山廬集)●たましひのたとへば秋のほたるかな 季 (山廬集)なきがらや秋風かよふ鼻の穴 季 (山廬集)をりとりてはらりとおもきすすきかな 季 (山廬集)古き世の火の色うごく野焼かな 季藍々と五月の穂高雲をいづ 季炎天を槍のごとくに涼気すぐ 季採る茄子の手籠にきゆァとなきにけり 季爽かに日のさしそむる山路かな 季滝津瀬に三日月の金さしにけり 季寒波きぬ信濃へつゞく山河澄み 季新年のゆめなき夜をかさねけり 季去年今年闇にかなづる深山川 季福鍋に耳かたむくる心かな 季初湯出しししむら湯気をはなちけり 季初機の山彦しるき奥嶺かな 季浪々のふるさとみちも初冬かな 季牧へとぶ木の葉にあらぬ小禽かな 季蝦夷富士は春しぐれする蝶の冷え 季深山の風にうつろふ既望かな 季滝おもて雲おし移る立夏かな 季麦秋の蝶吹かれ居る唐箕光 季夕虹に蜘蛛の曲げたる青すゝき 季夏嶽の月に霧とぶさるをがせ 季南風つよし子の病難に飯を嚙む 季たましひのしづかにうつる菊見かな 季白猫の見れども高き帰燕かな 季やまびこをつれてゆく屋根うろこ雲 季歓楽の灯を地にしきて冬星座 季春ぬくし旋風うつろふ桑畑 季雁ゆきてべつとりあをき春の嶺 季春燈やはなのごとくに嬰のなみだ 季芥火に沈丁焦げぬ暮の春 季しろたへの鞠のごとくに竈猫 季花祭みづやまの塔そびへけり 季夕影や脱衣をあるく女郎蜘蛛 季盂蘭盆の出わびて仰ぐ雲や星 季旅人や秋に後るゝ雲と水 季かなたなる海に日くらみ橇のみち 季人妻のこゝろやさしき薫衣香 季雪見酒一とくちふくむほがひかな 季水芹に雪ちる山井溢れけり 季夏風やこときれし児に枕蟵 季夏の露やうやく豆の青実垂る 季大嶽の闇に咫尺する夏燈 季鯒釣るや濤声四方に日は滾る 季麻刈つて渺たる月の渡しかな 季畑草や青酸漿もみのり時 季新月や掃き忘れたる萩落葉 季風あらぶ臥待月の山湯かな 季石楠花の紅ほのかなる微雨の中 季聖堂の燭幽かにて花圃の秋 季老いそめし己れをしりて花壇ふむ 季流燈や一つにはかにさかのぼる 季気折れ顔にくにくしさの相撲かな 季暑気せめぐ土むつとして胡麻咲けり 季扇折るや烈火にとべる秋の蠅 季秋の繭しらじら枯れてもがれけり 季万年青の実蝸廬の年浪流れけり 季蘡薁のここだく踏まれ荼毘の径 季初飛行つづく裏富士雲を見ず 季くちづけて連翹あまき露のたま 季万緑になじむ風鈴昼も夜も 季
【中古】飯田蛇笏と雲母寒夜句三昧/山梨日日新聞社/雨宮更聞(単行本)3453円(税込/送料込)カード利用可・海外配送不可・翌日配送不可 【VALUE BOOKS】