西東三鬼 ●
電工や雲雀の空に身を縛し 季暗く暑く大群衆と花火待つ 季モナリザに仮死いつまでも金亀子 季まくなぎの阿鼻叫喚をふりかぶる 季水枕ガバリと寒い海がある 季 (旗)●麦熟れてあたたかき闇充満す 季百舌鳥に顔切られて今日が始まるか 季限りなく降る雪何をもたらすや 季赤き火事哄笑せしが今日黒し 季鏡餅暗きところに割れて坐す 季一波に消ゆる書初め砂浜に 季獅子頭背にがつくりと重荷なす 季初釜のたぎちはげしや美女の前 季落葉して木々りんりんと新しや 季月光のつらら折り持ち生き延びる 季首かしげおのれついばみ寒鴉 季洞窟に湛え忘却の水澄めり 季生創に蠅を集めて馬帰る 季若き蛇跨ぎかへりみ旅はじまる 季中年や遠くみのれる夜の桃 季春を病み松の根つ子も見飽きたり 季船欄に夜露べつとり逃ぐる旅 季太陽へ海女の太腕鮑さげ 季父のごとき夏雲立てり津山なり 季広島や卵食ふ時口ひらく 季鉄の手に紙箱痿える雨期永し 季夏暁の子供よ土に馬描き 季椎匂ふ強烈な闇誰かを抱く 季青柿の下で悲しき事をいふ 季冬瀧を日のしりぞけば音変る 季冬菜畑伊賀の驛夫は鍬を振る 季おたまじやくし乾からびし路先細る 季
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